黄斑とは,眼球壁最内層に位置する,網膜の中心部の黄色調を呈する部分を指す。黄斑の中央にはくぼみ/陥凹があり,中心窩と呼ばれる。網膜の光受容細胞は視細胞と呼ばれ,暗所で活躍する杆体細胞と明所で活躍する錐体細胞に大別される。黄斑には,視力や色覚の中心的役割を担っている錐体細胞が密集しており,中心窩で最も錐体細胞密度が高い。また,中心窩には杆体細胞は存在しない。
黄斑部が障害される疾患は多岐にわたる。黄斑ジストロフィは,遺伝性網膜疾患の網膜ジストロフィのひとつに分類され,進行性に黄斑が変性する。両眼性視力障害,中心視野異常,色覚異常をきたす疾患の総称を指し,指定難病となっている。原因遺伝子は多岐にわたり,常染色体顕性遺伝(AD),常染色体潜性遺伝(AR),X連鎖性潜性遺伝(XL)のいずれの遺伝形式もとりうる。卵黄状黄斑ジストロフィ/Best病(AD),Stargardt病/黄色斑眼底(AR),オカルト黄斑ジストロフィ/三宅病(AD),錐体ジストロフィ/錐体(杆体)ジストロフィ(AD,AR,XL),X連鎖性若年網膜分離症/先天網膜分離症(XL),中心性輪紋状脈絡膜ジストロフィ(AD)の6病型が黄斑ジストロフィのガイドラインに記載されている(表)。ほかにも,家族性ドルーゼン(AD),常染色体潜性ベストロフィノパチー(AR),白点状眼底(AR)やmaternally inherited diabetes and deafness(母系遺伝)に合併する黄斑ジストロフィに加え,上記に分類されない黄斑ジストロフィも存在する。欧米で最も頻度の高いStargardt病の有病率は8000〜1万人に1人と言われているが,日本での頻度は低い。
初期症状として,視野の中心部が見えづらい,線が歪んで見える,まぶしさ(羞明)を訴えることが多い。病期が進行してくると,視力障害,中心部の暗点,色覚異常を自覚する。両眼性かつ進行性疾患であるため,自覚症状が悪化していることを聴取するのが重要なポイントである。20~40歳代に診断されることが多いものの,Stargardt病のように就学前に発症する病型も存在する。
視力検査で,矯正視力の低下がみられる。眼底検査では,両眼黄斑部に左右対称性の,色調異常,萎縮性病変,黄斑部網膜分離,沈着物などがみられる。一方,オカルト黄斑ジストロフィのように眼底に異常所見がみられない疾患も存在する。
光干渉断層計(OCT)では,網膜下の高反射病変,黄斑部網膜の菲薄化,黄斑部網膜外層のエリプソイドゾーン(視細胞の健常性を表す高反射ライン)の不鮮明化・消失,黄斑部網膜分離などの異常所見が例外なく検出されるため,診断の補助となる。眼底自発蛍光では,黄斑部に二次的な網膜色素上皮障害による過蛍光リングや過蛍光の点状・斑状病変,萎縮部位に一致した低蛍光領域などがみられる。Stargardt病患者のフルオレセイン蛍光眼底造影検査では,dark choroid(背景蛍光が相対的に暗くみえる)所見がみられる。
ゴールドマン視野検査で中心暗点が検出されるが,周辺視野は正常である。静的視野計(ハンフリーやオクトパス)による中心視野プログラムで,中心感度低下が検出される。眼底観察下で網膜感度を測定できる眼底視野計(マイクロペリメータ MP-3)を用いると,黄斑部の感度低下部位を定量化することができる。全視野網膜電図では,杆体系および錐体系応答の振幅は比較的保たれるが,錐体ジストロフィでは錐体系応答の潜時延長を伴う振幅低下が検出される。最近,皮膚電極を用いた網膜電位計(RETevalⓇ,HE-2000)で網膜電図が記録されることが増えている。多局所網膜電図では中心部の振幅・応答密度の低下がみられ,診断の一助となる。卵黄状黄斑ジストロフィでは,眼球電図におけるArden(明順応時の最大電位/暗順応時の最小電位)比が低下する。
遺伝子変異を探索する遺伝学的検査(遺伝子パネル/全エクソーム解析)は,保険収載されていないが,一部の大学・研究機関において研究レベルで行われている。これまでの研究から,BEST1,ABCA4,RP1L1,RP1,RS1,PRPH2,CRX,GUCY2D,RPGR,RDH5遺伝子に変異が検出されることが多い。
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