眼瞼炎は,日常診療でしばしば遭遇する疾患で,眼瞼縁炎と眼瞼皮膚炎に大別される。さらに,眼瞼縁炎は,睫毛根部を中心とした部分(前部)とマイボーム腺開口部を中心とした部分(後部)にわけてとらえる。眼瞼縁炎はしばしば眼表面炎症と関連しており,難治性の眼表面上皮障害の原因となっていることもある。特に,高齢者では,上眼瞼は下垂し,上眼瞼縁はやや内反している症例も多く,上眼瞼を挙上し,マイボーム腺開口部や睫毛根部を診察する習慣をつけることが,眼瞼縁炎,ひいては眼瞼縁炎に関連した眼表面疾患の診断と治療のために重要である。
まずは,どの部位の炎症なのかに着目し,さらにその炎症が,感染性(細菌性,ウイルス性,真菌性など)か非感染性(アトピー性,薬剤アレルギーなど)かを見きわめる。
前部眼瞼炎で最も頻度が高いのは,ブドウ球菌性眼瞼炎である。睫毛根部にカラレット(collarette,円柱状のフケや分泌物)を認めると,局所でブドウ球菌が増殖していると考えられる。一方,後部眼瞼炎は,マイボーム腺開口部周囲の炎症であるため,細菌増殖に伴うマイボーム腺そのものの炎症(マイボーム腺炎)であることが多い。マイボーム腺開口部の閉塞所見とともにその周囲の発赤・腫脹といった明らかな炎症所見を認める。起炎菌は,若年者ではアクネ菌が,高齢者では表皮ブドウ球菌などのブドウ球菌属の関与が考えられ,それぞれマイボーム腺炎角結膜上皮症(meibomitis-related keratoconjunctivitis:MRKC)を生じうる。
ヘルペスウイルスによる場合,臍窩を伴う水疱を眼瞼縁から眼瞼皮膚に生じる。単純ヘルペスウイルス(HSV)では,初発であれば両眼性のこともある。帯状疱疹ウイルス(VZV)による場合,三叉神経の支配領域に沿った皮膚の発赤を伴っていることで診断は容易であるが,無疹性で発赤のみの場合は診断が困難なことがあるので注意が必要である。
アトピー性皮膚炎に伴う眼瞼炎の診断は容易であるが,日常診療では薬剤アレルギーによるものに遭遇することが多い(接触皮膚炎)。特に,継続使用している緑内障点眼薬や,眼瞼炎に対して処方されているフラジオマイシン硫酸塩入りのステロイド眼軟膏などには注意が必要である。
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