日本糖尿病学会ガイドラインは、糖尿病性網膜症の発症・進展予防として「血糖コントロール」を推奨している。ただし薬剤選択については、「糖尿病治療薬の血糖コントロールを超えた網膜症への影響について一定の見解はない」との立場だ。一方、わが国の実臨床大規模データの解析からは、2型糖尿病(DM)発症早期であれば、SGLT2阻害薬による糖尿病性網膜症の抑制作用がDPP-4阻害薬よりも高い可能性が示された。千葉大学の越坂理也氏らが9月30日、Diabetes Therapy誌で報告した。
今回解析対象となったのは、日本在住で最小血管症・大血管症履歴がなく、DPP-4阻害薬かSGLT2阻害薬を単剤で新規に開始した2型DM 7万7047例(うちDPP-4阻害薬開始は5万3986例)中、傾向スコアで背景をマッチさせた2万332例である(各群1万166例ずつ)。民間のレセプト・健診情報データベースから抽出した。
年齢中央値は51歳、80%が男性だった。HbA1c平均値は7.7%、収縮期血圧(SBP)平均値は133mmHg、61%に脂質異常症を認めた。また喫煙者が32%を占めた。血糖以外の治療薬としては、35%がレニン・アンジオテンシン系阻害薬を、10%がフィブラートを処方されていた。
これら2万332例で、その後の「糖尿病性網膜症」診断リスクを比較した。
その結果、その後の「糖尿病性網膜症」診断率はSGLT2阻害薬群「46.2/1000人年」、一方DPP-4阻害薬群では「57.1/1000人年」となり、ハザード比はSGLT2阻害薬群で有意に低くなっていた(0.83、95%CI:0.75-0.92)。両群の発生率曲線は、比較開始後半年ほどで解離を始めたが、約4年経過以降はほぼ並行していた。
なおSGLT2阻害薬群における有意なリスク低下は、「BMI」(25kg/m2の上下)、「SBP」(130mmHgの上下)の高低を問わず認められた。
越坂氏らはこの結果を、ほかの東アジア諸国からの報告と軌を一にすると指摘[Chung YR, et al. 2019、Huang ST, et al. 2024]。SGLT2阻害薬による糖尿病性網膜症リスク減少の機序として、網膜周皮細胞への多様な直接的保護作用の可能性[Sha W, et al. 2020]などを指摘している。
本研究はアステラス製薬から資金提供を受けた。同社は試験デザイン立案から原稿作成まで関与した。また原著者以外による論文執筆補助の費用も同社が負担した。