新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は昨12月に発生以降、世界中に感染が拡大し、人間社会を揺るがしている。わが国の初めての感染者は1月に報告されたが、当初、このウイルスの特徴や感染経路、生体の反応等が不明であり、当たり前であった社会生活ができなくなる恐怖を社会に与えた。感染は未だ止まることを知らず、特に欧米では新規感染者数の歯止めが効かない状況であり、社会経済活動が通常に戻るのが何時になるか不明である。
筆者の二木立氏はリハビリの臨床医でありながら、1985年以降、わが国において一流の医療経済学者としての地位を確立した。私が氏と知己を得たのは2002年頃、中医協での私の発言に対するお手紙を頂いてからで、その後、日本医師会で仕事をする中で、氏に医療政策会議の委員をお願いして、豊富な知識と分析に基づく将来予測の意見を伺った。それは日本医師会の政策策定の大きな柱であった。氏は政府の様々な報告書や政策に関して分析した本を毎年記している。政府の示す報告書や政策は、立場によって受け止め方は様々となるが、氏は立場を超えて複眼的に分析をし、そして一貫して国民の社会保障に益する政策か否かを主張している。
本書は、新型コロナ感染症による社会の変化が、今後の社会保障、なかんずく医療改革にどの様な影響を与えるかを序章で述べている。この中で短期的検討として、2020年度第二次補正予算の思想と課題を評価し、中期的検討としては、小泉政権以降の過度な医療費抑制政策の転換が期待でき、日本医療への「弱い」追い風になると予測する。特に、地域医療を維持する医療機関への支援策として財源確保の必要性を述べ、租税財源の多様化と社会保険料の引き上げが不可欠と指摘している。第二章以降は、全世代型社会保障改革の中間報告の問題点を複眼的に指摘している。終章で「医療者の自己改革論」を述べており、「必要・可能な医療改革は、現行制度の枠内での部分改革の積み重ねであり、そのためには医療者の自己改革が不可欠である」と示唆に富む意見で纏めている。是非ご一読頂きたい。