No.5040 (2020年11月28日発行) P.57
川﨑 翔 (よつば総合法律事務所東京事務所所長・弁護士)
登録日: 2020-11-11
最終更新日: 2020-11-11
今回は、医療法人の事業承継とその課題についてお話しします。実は私自身も、高齢を理由に引退される先生から医療法人の承継を受け、友人の医師らとともに理事として、2019年4月からクリニックを経営しています(紙カルテからクラウド型電子カルテへの移行やキャッシュレス決済の導入、診察の順番待ちのシステム化、診療報酬の請求を含め、貴重な経験をすることになりました。承継から1年弱は受付事務としても働きました)。
このクリニックは、信頼できる行政書士の先生が従前から許認可や届出関係を担当していたという点や、私自身が法務デューデリジェンス(法務リスクの調査)を行うことができたということもあり、交渉開始から譲渡契約、承継後の開院まで比較的スムーズに進みました。
しかし、医療法人の事業承継に慣れていない仲介会社や士業が間に入る場合、株式会社の事業承継と同じような対応をしてしまい、結果として問題になるケースも多く、注意が必要です。例えば持分ありの医療法人の場合、持分の譲渡しか契約条項に入れていない、などという問題のあるケースも存在します。「持分」と「社員たる地位」は別なので、前社員の退任と新社員の選任は必須です。
また、院内の現況を確認したところ、実際は特定の施設要件を満たしていなかったケースや、これまでの診療報酬請求に誤りがあり、診療報酬返還の可能性があるといったケースもあります。医療法人特有の問題についても法務デューデリジェンスを行い、リスクを適切に評価した上で、譲渡価格や契約条項に反映させる必要があるでしょう。
医療法人の事業承継は、地域医療を支える開業医師の高齢化や後継者不足といった問題の解決策として注目されています(私自身が承継したクリニックは、先代の院長の時代から来ていただいている患者さんも多く、開院当初から集患の必要性がほぼありませんでした)。また、医療法人のM&Aが進むことで、従来の家族的経営から脱却し、より質が高く、競争力のある医療を提供しようとする組織作りが可能になるケースもあります。医療法人の事業承継には多くのメリットがある一方、医療法人ならではのリスクがあることを十分理解した上で進めていくことが極めて重要です。
川﨑 翔(よつば総合法律事務所東京事務所所長・弁護士)[クリニック経営と法務]