肩鎖関節脱臼を含む肩鎖関節損傷は,転倒や交通事故,コンタクトスポーツなどで,肩甲骨肩峰に対して上方からの直達外力が加わり,肩鎖靱帯および烏口鎖骨靱帯に損傷が生じる外傷である。損傷に伴う関節適合性の破綻で,Rockwood分類type Ⅰ 捻挫,type Ⅱ 亜脱臼,type Ⅲ 完全脱臼(100%以上),type Ⅳ 後上方脱臼,type Ⅴ 高度脱臼(200%以上),type Ⅵ 烏口突起下脱臼にわけられる。
肩鎖関節の垂直方向および水平方向の不安定性を的確に診断することが重要である1)。理学所見としては,鎖骨遠位部の突出や肩鎖関節部の圧痛,ピアノキーサインの有無に加え,inferior/superior motion testにて垂直方向の不安定性を,anterior/posterior drawer testにて水平方向の不安定性を評価する。また,肘関節を90°屈曲位に保持し鎖骨遠位端を押し込みながら,肘頭から上腕・肩峰を突き上げて肩鎖関節の徒手整復が可能か否かを判断する。
画像検査としては,単純X線撮影は上肢自然下垂位での肩鎖関節2方向(正面,斜位)に加え,比較のため健側撮影も行う。cross body adduction viewは,水平方向の不安定性の評価に重要である。鎖骨・肩峰の位置関係の評価には3D-CTも有用である。
急性期であれば,Rockwood分類type Ⅰ,Ⅱに対しては保存的治療,type Ⅳ以上に対しては手術的治療を行う。type Ⅲに対しては基本的に手術を選択するが,垂直方向の不安定性のみであれば保存的治療も選択可能である。水平方向に不安定性を認める症例に保存的治療を行うと,症候性陳旧例になる可能性が高く,手術を適応すべきである。実際に治療法を選択する場合,脱臼・不安定性の程度だけでなく,年齢や就労内容(デスクワーク,ぶら下がり動作や重量物挙上を含む肉体労働など),スポーツ活動の有無を含め検討する。治療法の選択には各方法の利点・欠点を十分に理解することが重要である。症候性陳旧例に対しては,手術的治療を考慮すべきである。
スポーツ選手の場合には,競技種目,レベル,シーズンなどを考慮する。オーバーヘッドスポーツの選手であれば,肩甲上腕リズムや筋力不均衡を生じる可能性があるため,急性,亜急性,陳旧性を問わず,手術的治療を選択する。その他のスポーツ選手では早期復帰のため,適切かつ積極的なリハビリテーションを含む保存的治療を行う2)。
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