【1つのアクセスポートから3つの内視鏡器具を挿入して鏡視下手術を行う】
胸腔鏡手術はさらなる低侵襲化をめざして,単孔式へ進む動きがある。その背景には光学機器やエネルギー装置,内視鏡鉗子の目覚ましい進化とともに,外科医の手術技術の向上がある。そもそも単孔式胸腔鏡手術は比較的古くから自然気胸に対するブラ切除や胸膜生検,末梢の肺部分切除に適応されていたが,2004年Roccoら1)によって,1つのアクセスポートから2つの可曲式の鉗子とカメラ,すなわち3つの内視鏡器具を挿入して鏡視下手術を行う,という画期的手術として報告された。その後,肺癌に対する肺葉切除+リンパ節郭清にも応用されるようになり,特にアジア地域を中心に普及が進んできた。パイオニアの1人であるGonzalez-Rivasら2)は,肺癌に対する区域切除,気管支形成,血管形成などの複雑な手術にも単孔式胸腔鏡手術を適応して,良好な成績を報告している。
一方で,創部が小さくなるほど難易度は上がり,安全性や根治性への懸念もある。さらに,小さな創による低侵襲性の証明や,術者のストレス増大についてもまだ議論の余地がある。また,単孔式胸腔鏡手術はソロサージェリーの要素が強い手術でもあるため,教育やトレーニング方法にも特有の注意が払われている。しかし,近年急速に普及してきたロボット支援手術にも単孔式ロボットが開発されており,単孔式の手術手技は今後さらに発展する可能性がある。
【文献】
1) Rocco G, et al:Ann Thorac Surg. 2004;77(2): 726-8.
2) Gonzalez-Rivas D, et al:Thorac Surg Clin. 2016; 26(2):187-201.
【解説】
中村廣繁 鳥取大学呼吸器・乳腺内分泌外科教授