発がんやがんの悪性化の直接的な原因となるような遺伝子をドライバー遺伝子と呼ぶ。ドライバー遺伝子により産生される蛋白質を阻害する分子標的治療薬は,従来の殺細胞性抗癌剤よりも選択的で高い殺細胞性を示す。
非小細胞肺癌の中でも腺癌には約70%にドライバー遺伝子が検出され,EGFR遺伝子変異,ALK融合遺伝子,ROS1融合遺伝子,BRAF V600E遺伝子変異,NTRK融合遺伝子,MET遺伝子スキッピング変異,RET融合遺伝子に対する分子標的治療が日常臨床で用いられている。
非小細胞肺癌と診断された場合,組織検体を用いて遺伝子検査を行いドライバー遺伝子の有無を調べる。現在は複数の遺伝子を調べる必要性が高く,次世代シークエンス法で複数遺伝子を同時に測定する方法が主流となりつつある。
EGFR遺伝子変異の約90%を占めるエクソン19の欠失変異とエクソン21のL858R変異に対する一次治療は,第1世代EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)(ゲフィチニブやエルロチニブ)と比較して治療効果,毒性ともに優れている第3世代薬オシメルチニブを選択する。一次治療に第1世代薬+血管新生阻害薬を用い,オシメルチニブを二次治療以降に使用し全生存期間の延長を期待するシークエンス治療も検討されている。
ALK融合遺伝子陽性の一次治療には,第1世代ALK-TKIクリゾチニブと比較し治療効果が優れるアレクチニブ,ブリグチニブが使用される。アレクチニブとブリグチニブはそれぞれの毒性の特徴を考慮して選択する。
ROS1融合遺伝子陽性には,コンパニオン診断に関する保険適用の観点からクリゾチニブが使用されている。エヌトレクチニブは,中枢神経への移行性がより高く,脳転移を有する症例への有用性が示唆されている。
MET遺伝子スキッピング変異に対しては,テポチニブ,カプマチニブがほぼ同時期に保険承認された。それぞれ保険承認されているコンパニオン診断が異なるため,遺伝子検査の種類に応じて治療薬を選択する必要がある。
BRAF V600E遺伝子変異,NTRK融合遺伝子,RET融合遺伝子陽性に対して保険承認されている治療は,現時点でそれぞれ1レジメンのみである。
一次治療が耐性となった場合の二次治療は,ALK融合遺伝子陽性には新世代ALK-TKIを使用する。それ以外はドライバー遺伝子変異陰性の非小細胞肺癌に対する一次治療に準じて,プラチナ製剤併用療法を中心とした治療を行う。免疫チェックポイント阻害薬の併用または単剤の投与に関しては,有効性,安全性に関するエビデンスがまだ十分でない。
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