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ラクナ梗塞に抗血小板薬投与は必要か?

No.5048 (2021年01月23日発行) P.51

西山和利 (北里大学医学部脳神経内科学主任教授)

登録日: 2021-01-21

最終更新日: 2021-01-19

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ラクナ梗塞の患者に抗血小板薬投与は必要ですか。降圧が第一の治療と考えています。かえって脳出血の危険が高まると思うのですが,ご教示願います。(神奈川県 I)


【回答】

 【降圧療法を第一に検討すべきだが,一定の条件下では抗血小板薬単剤による抗血栓療法も推奨される】

ラクナ梗塞とは脳の主幹動脈から分枝する穿通枝と呼ばれる細い動脈が閉塞して生じる脳虚血です。ラクナ梗塞の病理は穿通枝のリポヒアリノーシスであるとされています。一方で同じく穿通枝の血管障害に脳出血があり,高血圧性脳出血の多くは穿通枝が破綻して生じる出血性病態です。すなわち穿通枝の血管障害という共通の病態機序は虚血にも出血にもつながるわけです。実際に脳微小出血(cerebral microbleeds)が各種の脳梗塞に合併する率は,心原性脳塞栓症やアテローム血栓性脳梗塞よりもラクナ梗塞において高頻度だとされています1)。このことから高血圧を共通の危険因子としてラクナ梗塞と脳出血とは表裏一体の病態とも言えるわけです。

脳出血の予防では血圧の厳格な管理が必要ですが,ラクナ梗塞の予防にも降圧療法が第一であることが知られています。脳梗塞慢性期の降圧目標値は「日本高血圧学会ガイドライン(JSH2014)」では脳血管障害慢性期で140/90mmHg未満とされています2)。主幹動脈狭窄例では血圧の下げすぎに注意すべきですが,ラクナ梗塞や抗血栓薬内服例では忍容性があれば130/80mmHg未満をめざすという降圧目標が推奨されています2)。すなわち,ラクナ梗塞の予防には降圧療法が最も肝要であるという点は質問者のご指摘の通りなのです。

一方で,抗血栓薬がラクナ梗塞予防に対して有効とする根拠も複数存在しています。たとえばわが国発のエビデンスであるCilostazol Stroke Prevention Study(CSPS)研究では,シロスタゾールはプラセボ群に比し有意な脳卒中の再発低減効果を示し(プラセボ群に比し41.7%低減),その層別解析ではラクナ梗塞の再発予防に有効であることが報告されています3)4)。また,抗血栓薬のラクナ梗塞二次予防に関するメタ解析では,抗血小板薬単剤使用はラクナ梗塞の再発予防に有効であること,一方で二剤併用はラクナ梗塞では行うべきではないこと,が示されています5)。そして「脳卒中治療ガイドライン2015(2017年追補)」においても,“ラクナ梗塞の再発予防にも抗血小板薬の使用が勧められる(グレードB)”と記載されています6)。しかし同時に“ただし十分な血圧のコントロールを行う必要がある”とも明記されていることにも注意が必要です6)
以上より,ラクナ梗塞の二次予防については降圧療法が第一に検討されるべきですが,血圧管理が十分になされている等の一定の条件下では抗血小板薬単剤による抗血栓療法も推奨されます。しかし抗血小板薬を投与するにあたっては症例ごとに適応をよく検討すべきですし,脳出血合併の頻度が高い日本人においては,根拠もなく抗血小板薬を漫然と投与すべきではなく,また投与するとしても脳出血合併の危険が少ないタイプの抗血小板薬を選択することも重要でしょう。

【文献】

1) 仲 博満:脳卒中. 2016;38(5):346–52.

2) 日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会, 編:高血圧治療ガイドライン2014.日本高血圧学会, 2014.

3) Shinohara Y, et al:Cerebrovasc Dis. 2008;26 (1):63-70.

4) Gotoh F, et al:J Stroke Cerebrovasc Dis. 2000; 9(4):147-57.

5) Kwok CS, et al:Stroke. 2015;46(4):1014-23.

6) 日本脳卒中学会脳卒中ガイドライン委員会, 編:脳卒中治療ガイドライン2015(追補2017対応). 協和企画, 2017.

【回答者】

西山和利 北里大学医学部脳神経内科学主任教授

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