丹毒は真皮を中心とした細菌感染症で,主に溶血性連鎖球菌が原因となっていることが多く,蜂窩織炎は主に皮下脂肪組織を中心とした細菌感染症で,黄色ブドウ球菌や連鎖球菌が原因菌であることが多い。しかし,厳密に区別することは難しく治療方針も共通するので,practicalには「丹毒・蜂窩織炎」として一緒に論じられることが多い。
丹毒・蜂窩織炎は2~3日で急激に発症し,悪寒,発熱を伴うことが多い。病変部は潮紅,局所熱感があり,所属リンパ節腫脹を伴うことが多い。
丹毒は,主に顔面・頭部に発症し,比較的境界明瞭な,熱感,圧痛のある,浸潤を伴う紅色局面を呈する。腫脹が強い場合には,表面に光沢があり毛孔が開大して柑橘類の皮のような外観を呈する。多くは片側性であるが,顔面では時に病変が対側に及んで左右対称の皮疹を形成する場合がある。
蜂窩織炎は,丹毒よりも病変が深部にあり,主に皮下脂肪組織を中心とした感染症であるため,丹毒に比べると境界がやや不明瞭である。四肢に生じることが多く,片側性であり,足背,下腿全体など病変の範囲が比較的広いことが多い。
原因菌としては,黄色ブドウ球菌,溶血性連鎖球菌のいずれかであることがほとんどであるので,まずはこれらをターゲットとして,ペニシリン系やセフェム系の抗菌薬をエンピリックに開始する。同時に,病変部に創や排膿があれば,細菌培養を提出する。また,趾間や鼻腔,耳孔など,近接する部位からの菌の侵入が疑われる場合には,これらの部位からの培養を行う。飼い猫などの咬傷後に発症した場合には,パスツレラ菌など動物の口腔内常在菌が原因である場合がある。
高齢者や糖尿病などの基礎疾患のある患者,あるいは全身状態が悪く白血球増多が著明でCRP高値である患者の場合には,入院して点滴による抗菌薬の投与を行う。
通常は,3~4日で臨床的効果が現れ,1週間ほどで発赤,腫脹,熱感などの局所症状は消失し色素沈着となる。丹毒や蜂窩織炎は習慣化することがあるため,習慣化させないために,少なくとも1週間は有効な抗菌薬投与を継続する。
稀に,耐性菌や,肺炎球菌,大腸菌,緑膿菌などが原因菌であることがあるため,3~4日で臨床的に当初の抗菌薬の効果が得られない場合には,抗菌薬の変更を検討する。免疫抑制状態の患者ではクリプトコッカスなどの真菌や抗酸菌によって類似の臨床像を呈することがあり,またリンパ腫や炎症性の脂肪織炎でも類似の症状を呈する場合があるため,抗菌薬の変更によっても効果が得られない場合や,病変が新生・多発してくる場合には,深在性真菌症や非結核性抗酸菌症を含めた他の疾患を疑い,皮膚生検を行って病変部皮膚組織の培養検査(真菌,抗酸菌,細菌)を併せて行う。丹毒や蜂窩織炎が同じ部位に繰り返し生じることがあり,習慣性丹毒などと呼ばれている。このような場合には,再発を防止するために抗菌薬の投与を通常よりも長期間行うことが必要である。有効な抗菌薬を4~8週間,再発の回数や患者の状態に応じて投与する。
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