統合失調症は一般人口の約0.3~0.7%に生じる症候群である。10歳代後半~30歳代に発症年齢のピークがあり,男女比はほぼ1対1,男性のほうが発症年齢が比較的低い。幻覚・妄想などの陽性症状,情意減弱などの陰性症状,実行機能障害などの認知機能障害が主な症候である。発症原因は十分にわかっていないが,脳内神経伝達系であるドーパミン系,グルタミン酸・GABA系などの変化の関与が明らかになりつつある。進学・就職・独立など,人生の進路における変化が発症のきっかけとなりやすい。
精神科専門医以外の医師や医学研究者へのわかりやすい資料として,「統合失調症UPDATE―脳・生活・人生の統合的理解にもとづく“価値医学”の最前線」(別冊「医学のあゆみ」,2017)1),「統合失調症の基礎知識―診断と治療についての説明用資料」(『統合失調症』医学書院,2013)2),ウェブサイト「本物だから役に立つ こころの健康図鑑」(NPO法人こころの健康に大切な情報を届ける会)3),『マンガでわかる!統合失調症』(中村ユキ,他,日本評論社,2011)4),『統合失調症』(村井俊哉,岩波書店,2019)5)などがあり,本人や家族が本症について理解を深めるのにも役立つ。
近年では,症状の改善のみならず,本人の望む生活と人生の回復過程(リカバリー)が重視されるようになってきており,当事者としての経験を持ったスタッフ(ピアスタッフ)の存在や,当事者が自分自身のライフストーリーを再編する当事者研究が注目されている。また,市民が本症に関する知識や理解を深めたり,社会や医療従事者が持つ偏見・差別(スティグマ)を軽減することも重要な課題である。本症と向き合いながら望む生活と人生の回復をめざす当事者や家族の体験を視聴できるウェブサイト「JPOP-VOICE 統合失調症と向き合う」6)も有用である。
経過初診時には,幻覚や妄想の症状があっても自身としては事実だと感じており,医療の対象とは考えていないことも多い。一方,不安や恐怖に押しつぶされそうな感覚で助けてほしいとも感じている。まずは安全・安心を保証し,本人の主観を否定せずに聞いていくうちに関係性が成立し,周囲の人が提案する方針にも耳を傾けてくれるようになる。たとえ病識が不十分な時点でも,安全・安心が保証され,スタッフとの信頼関係が構築できると通院が継続できる。
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