開業医の先生であれば,仕事のできないスタッフに対して,「お前はクビだ!」と叫びたくなることがあるかと思います。
しかし,実際は簡単に解雇することはできず,しかも怒りの感情を爆発させたことで,労使間トラブルに巻き込まれやすくなります。
院長先生が気をつけていても,先輩スタッフが後輩に対して同様の発言をして労使間トラブルに発展することも考えられます。そのため,今回お伝えすることは,医院・クリニック全体に周知しましょう。
仕事のできないスタッフに対して不満を抱くのは,院長先生だけではありません。問題スタッフについては,一緒に働く他のスタッフも同様の気持ちを持っているものです。そのため,院長先生が気をつけていても,先輩スタッフが仕事のできない後輩に対して感情を爆発させてしまうケースもあります。
まず,先輩スタッフがいくら仕事のできない後輩に対して「お前はクビだ!」「明日から来るな!」と言っても,そもそも効力がありません。
解雇や退職など人事について決定ができるのは,人事権を持つ人に限られるからです。医院・クリニックで人事権を持つ人といえば,院長先生や事務長,医療法人でいえば役員など,一部の人に限られます。
しかも,「お前はクビだ!」のように感情を爆発させてしまうと,新たな火種を生むことになります。当然,言われたほうのスタッフは,たまったものではありません。激しく傷つくのはもちろん,先輩スタッフや院全体に対して怨恨の気持ちを抱きやすくなります。そのため,退職する際に,何かトラブルを起こす可能性があります。
特に,「お前はクビだ!」は「即時解雇」に当たる発言です。いくら効力を持たない発言としても,言われた問題スタッフが院長先生などに次のようなことを言って,食ってかかることは十分あり得ます。
「解雇予告手当として,30日分の平均賃金を支払え!」
使用者は,労働者を解雇しようとする場合においては,少なくとも30日前にその予告をしなければならない。30日前に予告をしない使用者は,30日分以上の平均賃金を支払わなければならない。
「不当解雇だ! 訴えるぞ!」
解雇は,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合は,その権利を濫用したものとして,無効とする。
「●●さん(先輩スタッフ)の発言には効力がない。あなたはクビではない。これからも働いてほしい。ごめんね」
と,院長先生が諭しても,感情的になった問題スタッフがすんなり納得するとは限りません。トラブルが泥沼化すれば,院長先生が責任を問われることになります。
院長先生や人事権を持つ方は,不満を抱えるスタッフに対して「何かあれば相談してね」などと周知・徹底しておくようにしましょう。さらに,院長先生の知らないところでスタッフ間トラブルが起きないように,普段から相談しやすい雰囲気や仕組みをつくるようにしましょう。