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スタッフとの対人関係:スタッフ同士,スタッフと院長で対立しないために[ドクターズチャート発!イマドキ開業の実際どうなん?(5)]

No.5270 (2025年04月26日発行) P.54

MM (ドクターズチャート代表)

よいこはこいよ (ドクターズチャート代表)

登録日: 2025-04-27

最終更新日: 2025-04-23

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本連載では,医師限定オンラインサロン「ドクターズチャート」の代表であるMM先生,よいこはこいよ先生に,ドクターズチャート内での話題をもとに,イマドキの開業・開業医について語って頂きます。

MM:ドクターズチャート代表。開業10年以上の医療法人理事長。Ph.D.。 Xフォロワー2万人。
Xアカウント: @medpractitioner

よいこはこいよ:ドクターズチャート代表。医学博士,内科医,クリニック院⻑。Xフォロワー1万人。
Xアカウント: @practitioner_11

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スタッフ同士の対人関係

──前回まで,雇用全体のお話,そして実際の採用面接のお話を伺いました。今回は,長く働いているスタッフを含め,対人関係で困ったケースなどがありましたら,教えて頂けますか?

MM いや,もうそれは多々ありますよね。どうしても揉め事は出ます。特にグループとか派閥ができるのは避けられない部分かなと思います。派閥は人数が少なくても,それこそ3人以上いればできると思ったほうがいいですね。正直なかなか難しいのですが,派閥をつくらせないための仕組みづくりが重要なんです。

よいこはこいよ(以下,よいこ) 対立構造って,だいたいパターンが決まってるんですよね。

MM そうですね。世代間の対立,若手とベテランの軋轢とか。同じ世代でも揉めることはありますけど,年齢差が絡むとより顕著になります。あとは職種間の対立も多いです。受付スタッフと看護師,診療補助スタッフとか。同じ職場で異なる職種が一緒に働いているので,給料体系や業務内容の違いから摩擦が生まれやすいです

よいこ 人間関係での合う合わないはどんな職場でもありますが,決定的な問題になるのは,意外と几帳面さとかルーズさの違いだったりします。たとえば,会計や書類の整理をきっちりやらないと気がすまない几帳面な人と,「まあこれぐらいでいいか」と大雑把な人。この二者は本当に合わないんですよね。特にクリニックだと,どちらかに偏った職場の雰囲気になることが多いので,合わない人が自然と居づらくなって辞めてしまうこともあります。退職理由を聞くと,「あの人のあのルーズなところが許せなかった」なんてことが意外と多いんですよね。

院長ができること,すべきこと

よいこ クリニックの特性として,勤務時間が平日午前9時から午後5時だけではなく,夕方から夜間にかけて働くとか,土曜日にシフトを組む必要があることが挙げられます。その中で「誰々さんは土曜に出ない」とか,「この人ばかり負担が小さい」という不公平感が対立を生む要因になるんです。院長がスタッフ同士の仲を直接取り持つのは難しいですが,少なくともシフトや業務分担での不公平感をなくす努力はできます。それが院長としての最大の介入ポイントかなと思いますね。

MM 不公平感や公平感のバランス調整は,特にクリニックでは大きなテーマだと思いますね。営業成績のような数字で評価される仕事ではなく,基本的には「守り」の仕事が中心なので,どうしても和を重んじるタイプの人が向いている職場なんですよね。1人だけ突出して何かをするという場面が少ないので,誰かが目立つと,逆に叩かれるような構図が生まれることもあります。だからこそ,院長が公平感をどうつくるかっていうのが非常に大きな命題だと感じています。実力を評価するための基準や軸が明確になりにくい仕事なので,そのあたりが特に難しいですよね。

よいこ そうですね。クリニックは企業ほど役職や階級が厳密に決まっているわけではありませんが,役職手当や業務手当など,仕事を評価する仕組みをつくる工夫が求められると思います。規模が小さい職場だからこそ,さじ加減が重要になりますね。

MM 確かに。仕事ベースで手当をつける形が妥当なのかなと思います。たとえばリーダー手当をつける場合でも,リーダーが「この業務をこれだけ担当している」「シフト決めもしている」といった具体的な役割をどれだけ追加で担当しているかを明確にしないと不公平感が生じますよね。

よいこ クリニックのような職場では,個々の適性や状況に応じて役割を割り振ることが,公平感や職場の和を保つために必要なことだと感じます。

──他の職場のマネジャー職と比べると,院長先生の場合は診察もしなければならないので,受付スタッフの働きぶりなどを直接見る機会は少ないと思います。そのあたりで何か工夫されていることはありますか?

MM それは本当にすべての開業医がぶつかる永遠の課題だと思いますね。診療の現場については自分が関わるので状況を把握しやすいんですが,受付で何が起きているかは見えにくいんですよね。これが原因で問題になることも少なくありません。やっぱり信頼できるリーダー的なスタッフを配置して,そこにしっかりと目を配ってもらう仕組みをつくらないといけないですね。院長の目が届かない部分をカバーしてもらうためにも,そういう意味でリーダーの存在は重要だと思います。

よいこ 私はミーティングって意外と大事だと思っていて。もちろんやりすぎると,ただ集まるだけみたいになってしまうんですけど,議題が明確にあるときには有効だと思います。たとえばコロナ禍では,感染対策やワクチン対応について話し合う機会を設けました。クリニックって企業と違って,そういう膝を突き合わせて話す場があまりないんですよね。でも,あえて時間を取って少人数でディスカッションする場をつくることで,意外と業務改善につながる話が出てくるものです。

MM 確かに,クリニックでは意識しないと,そういう場を設けるのが難しいですし,意図的にミーティングを行うのは効果的ですね。

院長とスタッフの対立

──院長とスタッフの間での対立について,何か具体的なエピソードがあれば教えて頂けますか?

よいこ うちの場合,診察を効率よく行いたいという理由で新しいシステムをどんどん導入するんですね。でも,そうするとスタッフ全員が「もうついていけません」という雰囲気になることがあります。

MM 朝出勤したら,なんだか全体的に不満が渦巻いているような感じですよね。

よいこ たとえば会計システムを新しくして,いわゆるポストペイ方式を導入しました。これだと感染対策にもなりますし,待ち時間も減るので患者さんにはすごく便利です。でも,導入するとなると,パソコンの操作や患者さんへの説明が必要になるので,現場の仕事量が増えるんです。覚えることも多くて,想像以上に負担がかかります。こういう新しいことを導入するたびに,院長とスタッフの間に対立構造が生まれることがありますね。良かれと思ってやったことが,現場では「また負担が増えるだけ」というふうにとらえられてしまうんです

MM 現場に負担がかかる業務は嫌がられますね。

よいこ そうなんです。大局的には正しい方向だと思いますが,現場に落とし込むには時間と丁寧さが必要ですね。

MM 開業医って,わりと新しいものが好きで,挑戦的な性格の先生が多いと思うんです。もちろん,年配の先生で落ちついて開業される方もいますけど,40歳代くらいでリスクを取って開業するような先生は,どちらかというと革新的で挑戦が好きなタイプが多いですよね。一方で,クリニックのスタッフはどちらかというと保守的な性格の人が適していると思います。なので,変化を嫌う傾向があるんですよ。そうすると,院長がどんどん新しいことをやろうとしても,それについていけないスタッフが出てきてしまう。このギャップは構造的にどうしても生まれてしまうと思います。

よいこ 院長とスタッフで性格の傾向が違うというのは,そうかもしれませんね。

MM そうなんですよ。医師は個性が強い人も多いので,スタッフ全員が突然辞めてしまうなんて話もパラパラ聞きます。それだけに,院長にはスタッフを引っ張る強さが必要ですけど,同時にスタッフの気持ちに寄り添う姿勢も求められる。ただ,それが行きすぎると,今度は院長が完全にスタッフに舐められてしまって,威厳がなくなることも実際にあるんです。

スタッフに喜ばれたこと

──これをやったらスタッフに喜ばれたとか,関係が良くなったみたいなエピソードがあれば教えて頂けますか?

MM うちでは,個人面談を定期的にやっています。大体3カ月に1回くらいは実施しています。それ以外にも,日常的にスタッフの表情や様子を気にするようにしています。会議や出勤時の挨拶はもちろんですが,その際に「最近ちょっと暗いな」とか「目が泳いでるな」と感じたら,早めに声をかけて他愛もない話をするようにしています。それから,受付にもちょこちょこ顔を出します。院長が受付に行かなくなってしまうことって多いと思うんですが,定期的に顔を出してスタッフの様子を見たり話を聞いたりするのは,とても大事だと思っていますね

よいこ それは素晴らしいですね。うちの場合,つまらないことかもしれませんが「甘いものの力」を借りることがあります。

MM 甘いもの,大事ですよね。

よいこ ミーティングや座談会の際に,時間があれば甘いものを用意して気軽な雰囲気にするんです。そうすると建設的な意見が出たり,場が和んだりしますね。また,スタッフが些細なことでも「先生,ちょっと相談いいですか?」と来てくれたときには,その場で即答して解決するようにしています。それから業務日報を活用していて,そこに書かれた内容には必ずフィードバックするようにしています。院長に話しても反応がないと,スタッフのやる気が失われてしまいますからね

MM そうですね。何かを言いやすい雰囲気づくりも大事ですよね。院長として診療中にイライラしてしまうこともありますが,それが続くとスタッフが何も言ってこなくなってしまう。だから,余裕があるように振る舞うことが重要です。問題が大きくなる前に,スタッフが気軽に「こういうことがありました」と言える雰囲気をつくらないといけません。ただ「トラブルがあったら教えてよ」と言うだけではダメで,実際に言いやすい環境を整える必要がありますね。

よいこ 公平感を作るためのシフトや手当の仕組みといったシステマティックな取り組みと,日常的な挨拶や甘いものを活用したコミュニケーションと,両方を併せて実践することが重要なんですよね。

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