在宅酸素療法:現在の保険診療では重症慢性心不全や慢性閉塞性肺疾患(COPD)などが対象疾患である。しかしながら,在宅の現場では急性肺炎,誤嚥性肺炎,急性心不全,狭心症発作,高熱,呼吸苦など,在宅酸素療法を必要とする患者が多数いる。そういう患者は安定するまで入院させるべきという意見もあるが,在宅で生活している患者は,病院がそう簡単に入院を引き受けてくれる患者ばかりではない。できるだけ自宅で治療が完結できるよう,どのような病態であっても在宅で酸素が自由に使用できるようにしたい。終末期における呼吸困難,低酸素血症状態改善のための在宅酸素は悪性腫瘍の末期に限られる。
在宅酸素を使う上での注意点は,酸素濃度を上げると炭酸ガスナルコーシスを起こす人がいることである。終末期のCOPD患者は要注意である。意識障害を起こしている場合はすぐに呼気炭酸ガスモニターや血液ガス分析装置で炭酸ガス濃度を検査する。COPD患者の酸素飽和度は88~92%での管理が望ましい。
人工呼吸器療法:人工呼吸器の種類には非侵襲的な方法として口や鼻マスクを使う非侵襲的陽圧換気(NPPV)と気管切開を伴う気管切開下陽圧換気(TPPV)方式がある。NPPVは神経難病,重症心不全,慢性肺気腫などに適応がある。またTPPVは筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの重症神経難病,脳幹部梗塞などの高位脊髄損傷,脳性麻痺などの小児疾患など,長期にわたる人工呼吸器管理を必要とする人に適応がある。
在宅で人工呼吸器を導入する際の注意点としてメーカーのサポートを十分に受けられるか,すぐに代替機を用意できるか,故障しない機種か,簡単に扱えるか,吸引行為ができるスタッフは足りているか,家族がきちんと吸引できるか,などがポイントになる。
人工呼吸器管理を行う医療機関は,少なくとも,酸素飽和度測定器,呼気炭酸ガスモニターもしくは血液ガス分析器,ポータブルX線撮影装置などの検査機器を在宅で行えるよう準備しておく。
NPPVの場合,舌根沈下で気道閉塞してしまうので,ポジショニングが大事になる。またマスクと蛇管をつなぐルートを閉塞させないように気をつける。
TPPV使用者で夜間吸引回数の多い人は,高研製コーケンネオブレスダブルサクションⓇ気管切開チューブを使用して気管内持続吸引器(アモレSU1Ⓡ)での24時間持続吸引が有効であるが,持続吸引チューブが閉塞しやすく,閉塞すると呼吸苦が強く出る。また唾液が多く飲み込みが難しい人には,エアポンプ改良型の口腔内持続吸引器が有用である。
人工呼吸器を長期間装着していると高確率で無気肺を起こすので,呼気終末陽圧(PEEP)を設定したり,カフアシストを使ったりして,無気肺防止に努める。理学療法士に呼吸リハビリテーションを依頼するとよい。また多職種連携で口腔ケアや体位ドレナージ,カフアシストなど排痰ケアをしっかり行うことで,肺炎を防止することができる。
急に胸が苦しくなった場合は気胸を一度念頭に置く。呼吸音に左右差が出るのですぐわかる。人工呼吸器患者は緊張性気胸に陥るので,早めに脱気できる医療機関へ救急搬送する。
患者との意思疎通が適切にできなくなると,急速に患者の体調が悪化していくことをたびたび経験している。また低体温症になると様々な有害事象が次から次へと起きてくる。少なくとも体温が35℃以上になるよう体温保持に努める。
吸引チューブを最初の個別包装袋に保管している例をよく見かけるが,絶対にしてはいけない。乾燥が遅れて細菌繁殖のもとになる。薄めた消毒液に漬けておくことも推奨しない。消毒液が気管内に入り込む。在宅でチューブを再利用する場合は,よく洗ってアルコール消毒し,空気乾燥させてから再利用する。吸引チューブは少なくとも毎日交換する。
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