昨年からの新型コロナウイルス感染症の拡大により,多数の医療機関が患者減・医業収入減に至りました。
もともと医療機関の後継者問題は深刻でしたが,医業収入が落ちたことがトリガーとなり,M&Aによる承継や廃業の問い合わせも増えてきました。
「お元気なうちは診療を続けたほうが良い」と顧問税理士に言われ,なかなか承継や廃業に踏み切れないケースもあります。しかし場合によっては,承継・廃業したほうが良い場合もあります。先生の今後のライフプランに大きく関わるところなので,適切な意思決定ができるよう,早い時期に準備検討を進めておくことをお勧めします。
図1・2は,日医総研が発表した,2017年時点の医療機関の後継者不在率を示したものです。
特に,有床診療所の後継者不在率が79.3%,無床診療所が89.3%となっています。これは全業種の平均(66.5%)を大幅に上回っている数字です。院長先生10人のうち8~9人が後継者不在ということになり,後継者問題の深刻さが改めて浮き彫りになりました。
そんな中で,昨年からの新型コロナ感染拡大は,多くの医療機関でも医業収入に大きな影響を与えました。とはいえ,日本医師会の資料にある,1施設当たりの医業収入の前年同月比(図3)を見れば,徐々に改善されている傾向にあります。しかし,これはあくまで平均値であり,依然として経営が厳しい医療機関も多いという事実は否めません。
医療機関は人件費など固定費の割合が高く,医業収入減は運転資金に大きな影響を与えます。そのため赤字が膨らみ,「内部留保のあるうちに承継か廃業しよう」という医療機関が増えているのです。
「いずれ経営は回復するから続けたほうが良い」という意見があるのも理解できます。しかし,このまま無理に診療を続けて赤字が続くようであれば,出口戦略を見直さなくてはなりません。
その場合,承継なのか廃業なのかは,しっかりと早い時期から検討する必要があります。