介護保険制度の普及,障害者総合支援法に基づくサービスの活用により病状,認知機能,日常生活活動(ADL),医療的ケアなどに関して多様な背景を持つ方々の在宅療養が推進されている。一方で家庭内や施設において高齢者や小児,障害者への虐待が表面化しており,社会的な問題となっている。
高齢者虐待防止法,児童虐待防止法,障害者虐待防止法の各法に基づき,医療者には虐待の予防,早期発見,保護や養護者支援の義務がある。法的に若干の差異はあるが,虐待の種類として,①身体的虐待,②心理的虐待,③性的虐待,④放置,放任,⑤経済的虐待,⑥その他〔セルフネグレクトやミュンヒハウゼン症候群(Münchausen syndrome)など〕がある。実際には複数の虐待を伴うケースも多く,虐待を分類するというより,虐待の可能性を認識するためのツールとして活用する1)。
虐待は繰り返されエスカレートする。まず虐待の可能性を疑うことが重要であり,虐待者や非虐待者の自覚は問わない。虐待は常に隠されており,被虐待者自身が虐待を否定する場合や,虐待者が無自覚の場合もある。4W1Hに従い経過を詳細に聴取する。客観的な事実の積み重ねが重要であり,経過を診療録に詳細に記載し,疑わしい外傷痕を認める場合は同意を得て写真に残すことが重要である2)。
既往歴や入院歴も重要である。高齢者の場合は生活歴や家族史を,小児や障害者では妊娠・出産の経過,母子手帳の記載(健診歴,予防接種歴)などを参考にする。高齢者であれば認知機能やADLの低下,小児や障害者であれば精神・身体障害,先天性疾患や慢性疾患が被虐待者となりやすい要因とされる。家族の介護力や経済的状況などを含めた社会的背景に関する洞察が家族支援と再発予防につながる。
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