著者が経験した様々な症例をベースに,症状別にリアルワールドのベッドサイドでの診断の思考過程が学べる良書である。外来で一般的な愁訴である「あるある」症状に対して,鑑別診断のリストアップ,病歴聴取,身体所見,検査の組み立てと,実臨床の診断の思考を時系列で“メカニズムを意識”することに重点をおいて記載してあり,“現場の空気感”をビビッドに感じることができる。ボリュームも読み通しやすく構成されており,アタマを使いながら楽しく,飽きることなく症例の学習が可能であると感じた。
このような思考訓練を楽しみながらの学びは,病態を理解・考察する能力を向上せしめるとともに,記憶の深部に残ると期待できる。“想定範囲を超えたヤバヤバ症例”も日常臨床で時に経験することであり,ひやっとした経験を思い出すベテランの医師も多いことと想像する。一度そのような症例を経験すると,以降は“想定範囲”として対応することができる。
序文にも記載されているが,“想定範囲を超えた”“当初の⾒⽴てが的中しなかった”ときの“「プランB」の引き出し”を多数持つことは臨床医の能力としてきわめて重要であり,そのような経験の共有には,学会(特に地方会など)の症例報告が良い機会であるとわたくしは考えていた。コロナ禍でそのような機会が減少している昨今であるが,本書を読めば数回分の学会参加に値する経験に触れることができると考える。
よって,これから経験を積む若い先生のみならず,教育に携わる先生,common diseaseを多数診療されている第一線の先生方にも広くお勧めできる良書と感じた。
なお,診断確定後の治療方針等に関しては,字数の制限から記載が比較的簡潔であり,若い先生方には本書を窓口に,より深い知識の習得のために成書での学習も期待したい。要所で参考文献・図書も記載されているので,是非より深い学びへと繋げて頂きたいと思う。