胸郭出口症候群(thoracic outlet syndrome:TOS)は,上肢の痛み,しびれ,だるさ,むくみ,動かしにくさなど多彩な症状を訴えることが多く,診断や治療が難しい疾患のひとつとして認識されている。頸椎,肩,肘,手外科領域を含む上肢の症状は混在し,専門的領域の範囲も超えるため,患者がドクターショッピングすることもある。なで肩の女性に多いと言われているが,一般成人,若年者,スポーツ選手にもよくみられる。
TOSの原因として,ほとんどの症例は解剖学的な素因がある。第一肋骨周辺は解剖学的にもともとvariationの多い部位であり,頸肋,異常線維束,異常筋線維,異常靱帯などの多数の破格が報告されている。
病態は,前・中斜角筋と第一肋骨に囲まれる斜角筋三角や挙上位における肋鎖間隙での神経血管束で狭窄していることなどが挙げられる。狭窄度合いは先天的な要因で個人差がある。発症は上肢の挙上運動や牽引動作により神経血管束の圧迫・牽引・摩擦が繰り返されることや,時に外傷や事故により引き起こされる。狭窄が強いと血管症状(手の冷感・蒼白,手や前腕のむくみなど)も合併する。
挙上動作による運動時痛や神経症状の増悪がみられる。
主訴,症状を聴取すると実に様々であり,頸椎疾患から上肢の局所疾患を除外診断することは困難である。問診は非常に重要で,上肢挙上位での生活動作の困難さを聴取することでおおよそ予測がつく。日常生活や仕事における挙上動作(ドライヤーをかける,電車のつり革を握る,電話をかける,洗濯干し,重労働など)に困難がある,スポーツでは投球動作時の痛みがある,楽器(バイオリンなど)の保持が難しいなどの訴えがあれば本疾患を疑う。合併症状として約半数に頭痛,強い肩こりなどの症状もみられる。
理学所見において圧痛は重要であり,特に鎖骨上窩の圧痛が多くみられる。
Roos test1)が最も有用な所見で鋭敏であり,1分以内で症状が増悪する例を陽性としている。
感覚障害は尺骨神経領域に多くみられるが,障害領域は多彩であり,確定診断としては有用ではない。
超音波(エコー)検査が診断に有用である。鎖骨上窩からプローブを当て,鎖骨下動脈の収縮期最大血流速度(peak systolic velocity:PSV)の評価,第一肋骨筋停止部での前・中斜角筋三角底辺間距離(ISD)の計測が有用である。下垂位,90°外転位,最大挙上位の3肢位でそれぞれPSVを測定する(正常80~120cm/秒)。上肢挙上にてPSVが0cm/秒になる場合には血管の狭窄が強く疑われる。PSVの著明な低下はTOSと診断できる。ISDは第一肋骨内縁に沿って計測し,平均10mm(0~20mm)程度2)であるが,TOS患者では平均距離以下であることが多く,手術症例においてISDは平均5mm程度である。
挙上位3DCT angiographyでは,血管の狭窄や頸肋奇形さらには肋鎖間隙の狭窄などが確認できる(図)。
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