扁平上皮癌がほとんどを占める。部位は舌側縁が非常に多い。舌下面・舌腹がそれに続くが,舌背は稀である。長期間の飲酒・喫煙習慣の影響のほか,内倒歯牙や義歯による慢性刺激が関与している。人工補綴物の刺激により,後期高齢者になってからの発生もみられる。
早期では「痛みはないが白色病変がある」「ザラザラする,びらんがある」,あるいは「口内炎が治らない」等の持続する痛みがある。さらに進行すれば深い潰瘍や硬結を触れたり,外向型では肉芽様腫瘤や「噛んでしまう,出血する」,内向型では大きな腫瘤を形成し「自発痛,圧痛」「ろれつが回りにくい」等で受診する。
患者の訴えがある部位だけでなく,口腔全体をくまなく診るため義歯を外して観察する。舌側縁,口腔底・舌下小丘,舌腹,下歯肉を視診し,次に粘膜下に腫瘤,痛みがないかソフトに触診していく。舌癌は肉眼による観察でも粘膜不整で見分けがつきやすい。サイズ,深部浸潤・中咽頭への進展程度,歯肉・歯牙との関係を記録しておく。頸部リンパ節はLevel Ⅰ~Ⅲをはじめ,全頸部を触診する。
腫瘍かどうか迷う病変があれば細胞診を行ったり,確定診断として生検を施行する。また,生検前の全体像をデジタルカメラで撮影しておくと,主病変からの粘膜変化の広がりが再認識できたり,病状説明用にも活用できる。
単純CTや,造影CTでも画像スライス幅が広ければ十分な情報とはならないので,腎機能低下(例CT:Cre l.31mg/dL以上,MRI:eGFR 30mL/分/1.73m2未満),喘息がなければ造影CTならびに造影MRIが必須である。5mmスライス軸位CTでも多くの情報が得られるが,CTは2mmスライス撮影で再構成画像(multiplanar reconstruction:MPR)を活用,MRIでは3mmスライス撮影とすれば腫瘍深達度(depth of invasion:DOI)計測精度がさらに上がる。下顎歯肉・口腔底に及ぶケースでは,下顎骨浸潤の程度(骨膜まで・皮質骨まで・骨髄浸潤)の把握が重要である。多発リンパ節転移症例では,肺CTまたはPETでの遠隔転移検索を行うことが望ましい。また,重複がん検索として上部消化管内視鏡検査を付加する。
根治性を担保しつつ嚥下・構音機能温存を考慮した治療を行う。舌癌では進行度にかかわらず手術が第一選択である。小線源治療(対象:T1/T2/表在性T3)が行える施設は限定的である。
部分切除,半側切除,亜全摘,全摘を行う。腫瘍周囲・深部断端から10mm以上の切除安全域を設ける。UICC「TNM悪性腫瘍の分類 第8版(2017年)」のT分類にはDOIの概念が取り入れられており,DOI 3mm以上ではリンパ節転移のリスクが高まる。
頸部郭清を行う。N1:LevelⅠ~Ⅳ,N2以上:LevelⅠ~V,リンパ節の周囲組織浸潤の有無により血管・神経・筋肉の温存を考慮する。N0における予防郭清:LevelⅠ~Ⅲを行う。
半側切除以上に行う。再建材料は前外側大腿皮弁,前腕皮弁,腹直筋皮弁,大胸筋皮弁の選択がある。亜全摘以上では,嚥下機能改善目的で喉頭挙上術+輪状咽頭筋切徐術を併施する。
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