「引退後の年金は,結局どうなるのでしょうか?」
「妻と離婚するかもしれないのですが,将来の年金の半分を相手に渡さないといけないのでしょうか?」
将来の年金について,こんな疑問を持っている先生もいらっしゃるかもしれません。
今回は年金制度や,離婚した際の年金分割制度についてお話しします。
まず年金の前に,「医師の引退」について3つのパターンを見ていきましょう。
公務員系,つまり,国立病院や県立病院,公営の医療団体など,公務員として働いている医師の場合は,ほかの公務員職種と同じく,国のルールに基づき65歳が定年となります。
民間病院の場合,たとえば65歳定年制を採用しているのなら,それに従うことになります。特に定年を定めていない病院であれば,定年はありません。さらに,定年を定めている民間病院でも,ある一定の実績を積み重ねた医師が,院長や役員,幹部候補に昇格できるケースもあります。その際は,定年後も役職を替えて勤務を続けることが可能となることも多いでしょう。
なお,①②のケースでは,定年後に独立したり,フリーランスや非常勤医師,企業の産業医になったりすることも可能です。したがって,体力や技術を維持できるのであれば,医師という職業で長く活躍することができるでしょう。
独立開業する,または親の後などを継いで,自らトップになるようなケースでは,医師は自営業者になります。自営業者には特に定年が定められていませんので,自分の意思で,働ける限りは,仕事をすることができます。
つまり医師は,定年などの年齢に関係なく,自分の意思で仕事を続けやすい職業と言えるでしょう。
年金制度は,「3階建て構造」と言われています(図1)。
1~2階部分は社会保険制度を採用した「公的年金」となりますが,3階部分は企業や団体,もしくは個人が独自に追加する箇所になります。
それぞれについて説明していきましょう。
20歳以上60歳未満の国民全員が対象となる年金で,20歳になれば自動的に加入になります。すべての年金の土台になることから“基礎年金”と言われ,働いていない人にも納付する義務があります。
国民年金を受給するには,保険料を10年以上納付することが条件となります。
原則として65歳から給付が始まり,亡くなるまで受け取ることができます。また,最大5年間繰り上げて,あるいは繰り下げて給付を受けられる制度もあります(繰り上げの場合は受給額が減額され,繰り下げの場合は増額されます)。
民間企業の従業員や公務員などを対象にして,国民年金に上乗せ給付を行う制度です。法人の病院などに勤務する医師が加入する年金で,通常は企業や事業所に勤務していれば,自動的に加入となります。
厚生年金も65歳から給付され,給付額は個人によって異なり,平均給与(標準報酬)と加入期間から算出されます。基本的に,平均給与が高ければ納付額も多いため,給付金額は高額になります。また,加入期間が長いほど増額されます。
開業医などの自営業者やフリーランスの医師が加入できる,厚生年金のような公的制度です。
国民年金基金の掛金の上限は月額6万8000円であり,掛金の額を一度決めると基本的に固定で,年金額も確定します。65歳から一生涯受け取れる終身年金となります。
企業や団体が独自に運営している年金です。加入は必須ではありませんが,勤務医だけでなく,開業医も含め,各個人が自分の判断で加入することができます。企業年金の例として,確定給付企業年金制度を使用して病院側が掛金を負担し,医師が将来受け取れる年金額を増額しているケースなどがあります。
なお企業や団体が,企業年金として「厚生年金基金」を設立している場合があります。「厚生年金」と非常によく似た名称ですが,公的年金ではありません。企業年金の1つで,企業が厚生年金の給付を代行した上で,企業独自の年金を上乗せして給付する,という仕組みです。
病院が加入する厚生年金基金の場合は,関連病院や診療所,その他医療施設などが参加しているケースが多いようです。勤務先の企業や病院に厚生年金基金が設立されている場合は,厚生年金とともに自動的に加入となります。
3階部分の「個人年金」については,次章で説明しましょう。