嚥下障害は口腔・咽喉頭の感覚と運動,さらに呼吸を含む全身機能の低下を原因として生じる。その治療は,各々の症例の嚥下障害(機能低下)の病態と重症度を把握して行われ,患者の経口摂取機能の向上と,誤嚥を減らして嚥下障害関連肺炎を予防する,という2つの目的を持つ。
「摂食に時間がかかる」「食物や唾液の咽頭貯留」「体重減少」といった経口摂取機能の低下による症状や,「むせが多い」「痰が汚い」「発熱」「元気がない」といった誤嚥や肺炎による症状を伴いやすい。
舌,咽頭,喉頭の運動機能の低下ないし感覚の低下を認める。全身の身体・呼吸機能,精神機能において摂食や排痰の支障になる機能低下がある。
反復唾液嚥下検査で嚥下回数が30秒間に3回未満である。水飲み検査で嚥下が生じない,またはむせを呈する。食事中のパルスオキシメーターの測定で動脈血酸素飽和度が低下する。
口腔内の乾燥,汚染や舌圧の低下がみられる。
嚥下内視鏡検査において,①咽頭の唾液貯留,②内視鏡先端による喉頭接触時の防御反射の低下,③着色水嚥下時の嚥下反射惹起の不良,④嚥下後の咽頭残留,がみられる。
嚥下造影検査において,①口腔から咽頭への食塊輸送の障害,②嚥下反射惹起の遅延,③喉頭挙上の障害,④上部食道括約筋の弛緩障害,⑤嚥下後の口腔,咽頭の残留,がみられる。
はじめに患者の経口摂取の状況,水分・栄養状態,呼吸状態,肺炎の有無について評価する。また,家族背景や生活自立度,長期的な療養になった際のキーパーソンを把握する。
必要があれば補液や経管栄養により,水分・栄養状態の補正と肺炎の治療を優先する。口腔や咽頭,喉頭の感覚と運動を中心に,嚥下担当器官の診察と嚥下内視鏡検査を行い,嚥下障害の病因と重症度,治療介入の方法について判断する。
治療の主体として,その患者の機能障害を補うように,口腔ケア(義歯の装着・調整や口腔のクリーニング),摂食・嚥下の間接訓練(食物を使わない舌・咽頭・喉頭・頸部の訓練,呼吸の訓練),直接訓練(食物を用いた,食材・食器・食事姿勢の工夫による摂食訓練)を進める1)。この際,主治医,嚥下機能やリハビリテーションに精通する医師,歯科医師,メディカルスタッフ,家族,本人の協力が必要になる。
薬物療法ではカプサイシンやACE阻害薬が嚥下反射の惹起性を向上することが知られているが,現状で保険適用となっているものはない。
口腔ケアやリハビリテーションの治療を行っても嚥下障害の改善が不十分で,本人や家族の希望がある場合に,嚥下機能改善手術や誤嚥防止手術の外科的治療を検討する2)。
嚥下障害の検査とリハビリテーションは患者本人の意思と理解に基づいて行うべきであり,他疾患にも増して患者や家族との十分なコミュニケーションを要する。また,食物を用いた直接訓練では誤嚥による肺炎や窒息のリスクを治療者,患者ともに共有して,慎重かつ適切に進めることが重要である。
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