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注意欠如・多動症(ADHD)[私の治療]

No.5082 (2021年09月18日発行) P.44

齊藤卓弥 (北海道大学病院児童思春期精神医学研究部門特任教授)

登録日: 2021-09-21

最終更新日: 2021-09-14

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  • 注意欠如・多動症(attention-deficit hyperactivity disorder:ADHD)は,前頭前野の機能不全による実行機能障害をはじめとする複数の神経心理学的障害のために,発達水準に不相応な不注意,多動性-衝動性を生じる児童期~成人期に継続する神経発達症のひとつと考えられている。

    ▶診断のポイント

    DSM-5では,12歳以前から学校・家庭・職場などの複数の場面で認められる不注意,多動性-衝動性によって診断される。診断においては,幼少期からの病歴聴取が不可欠である。児童青年期では,不注意あるいは多動性-衝動性の少なくとも1つの領域で症状が6項目以上,成人期(18歳以上)では,5項目以上が必要とされる。特に①症状のいくつかが12歳以前から,②学校・家庭・職場などの複数の場面で,③発達水準に不相応な不注意,または多動性-衝動性の一方,もしくは両方が存在するか,④これらの症状による機能障害があるか,を聴取する。また,診察時の行動観察に加えて,通知表などの幼少期の資料,家族や第三者からの情報を入手し,診断することが不可欠である。診断時には,他の精神疾患,身体疾患の鑑別も重要である。

    補助的に症状の評価尺度,半構造化面接を取り入れることも有用であるが,現時点では心理検査,画像検査等でADHDの診断をすることはできない。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    患者の発達(身体)および心理学的な発達を考慮し,家族や学校などとの連携が適切な治療環境・薬物の反応の評価の上で重要である。ADHDの治療目標は,児童青年期・成人期ともに①症状をなくして日常生活・学校生活・職場でのQOLの改善,②他の精神疾患の二次的な予防,にある。まず,心理教育・疾病教育を含めた心理社会的な介入として,学校・家庭での特性に合った合理的な配慮・環境調整を行い,十分な効果が認められない場合には薬物療法に移行する。

    【薬物療法上の一般的な注意】

    ADHD治療薬は,精神刺激薬と非精神刺激薬に分類される。精神刺激薬のeffect sizeは非精神刺激薬より大きく即効性があり,休薬日を設けることもできる。一方で薬物の持続時間が10~12時間と短い。

    精神刺激薬は依存や乱用など不適切な使用を防ぐため,コンサータ®(メチルフェニデート。児童青年期・成人の両方で適応取得),ビバンセ®(リスデキサンフェタミン。18歳未満にのみ適応取得)を処方するためには,ADHD適正流通管理システムを介して処方医ならびに処方する医療機関を登録する必要がある。また,処方を受ける患者もADHD適正流通管理システムに登録してIDの発行を受け,処方の際は薬局でIDの提示が必要である。ビバンセ®は,コンサータ®が無効であったり,有害事象で使えない場合に使用できる。

    非精神刺激薬のアトモキセチンとインチュニブ®(グアンファシン)はIDの発行は必要ない。精神刺激薬ではないため依存・乱用のリスクは低い。しかし効果が出現するまで数週間かかり,effect sizeは精神刺激薬より小さいと報告されている。

    *精神刺激薬・非精神刺激薬は一般には中枢刺激薬,非中枢刺激薬と記述されることもある。

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