【感染徴候がなければ2週間程度でいったん中止するのが妥当】
わが国の急性膵炎診療ガイドラインにおいて,多施設ランダム化比較試験(randomized controlled trial:RCT)6編を用いたメタ解析の結果から重症急性膵炎に対して発症早期(発症後72時間以内)の予防的抗菌薬投与が生命予後を改善する可能性があるため推奨されています(推奨度2,エビデンスレベル2)1)。抗菌薬としては膵組織の移行性がよいカルバペネム系抗菌薬が選択されます。しかし,予防的抗菌薬の投与期間に関してはエビデンスが乏しく,終了する明確な基準がないのが現状です。
予防的抗菌薬投与の目的は,重症の壊死性膵炎に伴う膵組織・膵周囲組織の壊死から発生する後期合併症である被包化壊死(walled-off necrosis)を主とした膵局所合併症の感染予防です。膵炎発症早期には膵壊死の判別が困難な場合も多く,重症であれば予防的抗菌薬の投与が行われます。発症数日後のCT評価で膵壊死まできたしていなければ感染予防の意義は乏しく,抗菌薬投与中止可能と考えます。
現在の重症度判定基準では,膵壊死をきたさなくても重症と判定される症例も多く,そのような症例にも漫然とカルバペネム系抗菌薬が投与されていることは多いかと思われます。感染予防の必要性が高い壊死性膵炎の場合は,抗菌薬を中止するタイミングは難しいですが,感染徴候がなければ2週間程度でいったん中止するのが妥当と考えます。ガイドラインにもエビデンスは乏しいですが2週間を超えて投与を継続することは避けるべき,と解説文に記載されています1)。
【文献】
1) 急性膵炎診療ガイドライン2015改訂出版委員会, 編:急性膵炎診療ガイドライン2015, 金原出版, 2015.
【回答者】
向井俊太郎 東京医科大学消化器内科学分野講師
糸井隆夫 東京医科大学消化器内科学分野主任教授