肩関節脱臼は若年者から高齢者まで日常診療でよく遭遇する疾患です。近年の関節鏡手術の進歩により,短期の関節鏡手術の成績は良好と認識されていますが,年齢,障害の程度,スポーツや労働復帰の希望などの様々な条件が,保存加療,手術加療に影響を与えるのではないでしょうか。現在の肩関節脱臼の基本的な治療方針と最近のトピックスについて教えて下さい。東北大学・山本宣幸先生にご回答をお願いします。
【質問者】
船越忠直 慶友整形外科病院・慶友肩関節センター長
【治療は初回脱臼に対するものと反復性脱臼に対するものに分かれる】
肩関節脱臼と言っても様々な病態がありますが,一般的に「肩関節脱臼」は「外傷性肩関節前方脱臼」を指すため,本稿でも「外傷性肩関節前方脱臼」に関して述べたいと思います。
治療は,保存治療と手術療法に大きく分かれます。治療方針は初回脱臼と反復性脱臼で異なります。
治療には3つの選択肢があります。外旋固定,脱臼予防装具,手術療法です1)。
①外旋固定
脱臼整復後3日以内であれば外旋固定の適応になります。外旋固定によって再脱臼を半分に減らすことができることがわかっています2)。
②脱臼予防装具
脱臼予防装具はシーズン中のアスリートや手術を希望しない症例に適応になります。脱臼を完全に予防することはできませんが,一定の効果があることは報告されています3)。
③手術療法
再脱臼を防ぐという意味では手術療法が最も成績が良いと言えます。最近5年ほどの鏡視下Bankart修復術の臨床成績を見ると,再脱臼の発生率(%)は1桁台です。当施設の成績も5%と良好です4)。初回脱臼の患者でもう再脱臼は避けたいという希望があれば手術療法を選択すべきです。
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