外傷性鼓膜穿孔の原因として,耳かきや綿棒などによる直接外力によるものと,耳への平手打ちや爆風などにより引き起こされる間接外力によるものに大別される。いずれも多くの場合,自然閉鎖が期待できる。また交通事故や転落などの側頭骨骨折時には,骨折線の延長上に鼓膜穿孔や耳小骨離断が生じる。自然閉鎖しない鼓膜穿孔,耳小骨連鎖の離断は待機的に手術による修復を要する。ただし内耳に損傷が及んだ場合は,緊急手術が必要な場合もあるため鑑別が必要である。
外傷性鼓膜穿孔は受傷直後にほぼ全例で耳閉感を呈するが,難聴は訴えない場合もある。時に耳からの出血や耳鳴が続発する。耳小骨連鎖離断を合併すると難聴がより高度となる。回転性めまいが生じた場合は内耳の損傷を示唆する。
拡大耳鏡にて鼓膜穿孔や感染の有無を確認するが,必要であれば顕微鏡下に凝血塊の除去や内視鏡による詳細な観察を行う。このとき穿孔の大きさと部位を記録しておき,保存的な治療を行う際の基準とする。純音聴力検査では多くの場合伝音難聴を呈するが,骨導の閾値上昇を認める場合には,内耳障害が生じていることが示唆される。また,気骨導差が30dB以上認められる場合には,耳小骨連鎖離断が生じていることを疑う。鼓膜穿孔がなければティンパノメトリーが可能であり,耳小骨離断の典型例ではAd型を示す。側頭骨CTは耳小骨や内耳の形態,および側頭骨骨折の診断に有用である。
一般に外傷性鼓膜穿孔は,感染さえなければ80%以上の症例で自然閉鎖が期待できる。そのため,耳小骨連鎖離断や内耳障害のない症例では,基本的に保存的治療を先行する。感染がない症例では,キチン膜などの人工膜をパッチすることで穿孔閉鎖を促すことができる。感染を合併した症例では,ペニシリン系抗菌薬とニューキノロン系の局所点耳薬を用いて治療する。3カ月を過ぎて保存的治療では自然閉鎖しない症例では,鼓膜再生術や鼓室形成術などの手術法を選択する。耳小骨離断の場合も難聴が3カ月以上改善しない場合には,鼓室形成術の適応となる。一方で,受傷直後に感音難聴やめまいを合併している症例で,外リンパ瘻が疑われる場合には可及的速やかに試験的鼓室開放術を行い,内耳瘻孔閉鎖をすることで永続的な内耳障害を防ぐ必要がある。
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