【明確な比較研究はないが,筋肉内接種での接種後の腫脹の観察を重ねて,同側に2本以上接種する場合は,1〜2インチ(約2.5cm以上)間隔を空けることが推奨されている】
まず,この2.5cmという数字は,1インチ(25.4mmと規定)から来ていると思われます。米国のワクチン解説書である,“Pinkbook”に最初に記載されたのが1990年代です。
1990年代前後の研究において,筋肉内注射後に2cm以上あるいは2.5cm以上の発赤や腫脹を観察した事例があり,それ以上に腫脹する場合もありますが,大多数はこれくらい離して接種すると,どちらのワクチンによる局所反応か区別できるだろうという見解です。
結論から申し上げますと,ワクチンを2本以上接種する際に,同側で2.5cm以上空けた場合とそうでない場合の比較はありません。
2015年SAGE MeetingにてDolanら1)がこの点を検討しています。著者らが,PubMedで‘injections 2.5cm’あるいは‘injections 1inch’と検索して合わせて388件がヒットするものの,関連性を示唆する記事は結局なかった,と結論付けています。
以下の2論文をご参照下さい。1989年刊行の‘Pediatrics’でIppらは,18カ月の乳児に対してDPT-polioワクチンを接種する部位(三角筋と大腿)と針の長さについて,異なる3群で比較しました。ワクチン接種後の発赤や腫脹を親に測定してもらい,2cm以上の発赤が生じた割合は三角筋接種群の47.3%, 2cm以上の腫脹がみられたのは29.7%でした2)。この研究は,筋肉内注射で行われています。明記してありませんが,定規で長さを測定していることから長径と思われます。
また,1992年刊行の‘Vaccine’でScheifeleらがDTP-PRP/Dを1種類のみ接種した群とDTPとPRP/Dの2種類を接種した群で有害事象を検討し,2群間での統計学的有意差はなかった,と結論付けています3)。この論文中のデータは,25mm以上の発赤や腫脹があったか,で区分けしています。
WHO 4)は,この2論文を根拠として2.5cm以上離して接種することを推奨していると思われます。このWHOから引用して,各国の予防接種ハンドブックが作成され,同側に2本同時に接種する場合は2.5cm以上,あるいは1〜2インチ空けることが推奨されていると思います。
日本でも,日本小児科学会の予防接種の同時接種に対する考え方5)において,「上腕ならびに大腿の同側の近い部位に接種する際,接種部位の局所反応が出た場合に重ならないように,少なくとも2.5cm以上あける」と記載されています。
各国のワクチン解説書での表記を比較します。
American Academy of Pediatrics 6)では,複数のワクチンを接種する場合,同側の四肢に接種する場合はどんな反応でも確認できるように,1〜2インチ離して接種するよう推奨しています。
米国CDCでは,同様に1インチ以上離して接種するよう推奨しています。そうすれば,どんな局所反応でも区別しうる7),との理由です。
英国やカナダ,オーストラリアなどでも,引用文献の記載はありませんが,ワクチンハンドブックに掲載されている記事では,明確に間隔を規定して推奨されています。
【文献】
1)Dolan SB, et al:WHO SAGE Meeting, April 2015.
[https://www.who.int/immunization/sage/meetings/2015/april/5_Summary_of_Evidence_3-25-2015.pdf?ua=1]
2)Ipp MM, et al:Pediatrics. 1989;83(5):679-82.
3)Scheifele D, et al:Vaccine. 1992;10(7):455-60.
4)[https://www.who.int/immunization/diseases/poliomyelitis/inactivated_polio_vaccine/multiple_injections_acceptability_safety.pdf]
5)[https://www.jpeds.or.jp/uploads/files/saisin_1101182.pdf]
6)[https://www.aap.org/en-us/advocacy-and-policy/aap-health-initiatives/immunizations/Practice-Management/Pages/Vaccine-Administration.aspx]‘The right site’
7)[https://www.cdc.gov/vaccines/hcp/acip-recs/general-recs/administration.html]
【回答者】
沼田里奈 福岡歯科大学総合医学講座小児科学分野
岡田賢司 福岡看護大学基礎・基礎看護部門教授