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せん妄[私の治療]

No.5093 (2021年12月04日発行) P.49

八田耕太郎 (順天堂大学医学部附属練馬病院メンタルクリニック教授)

登録日: 2021-12-01

最終更新日: 2021-11-30

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  • せん妄は,軽度の意識の曇り(量的な低下)に質の変化(幻覚や精神運動性の異常)が重畳した特殊な意識障害で,時間とともに変動する急性脳機能不全である。様々な身体疾患や薬物・薬剤がせん妄惹起の誘因になるが,それには神経細胞の老化,慢性脳虚血性変化とそれに伴う血液脳関門の透過性亢進,低酸素機序,生体ストレス下でのグルココルチコイド上昇,睡眠覚醒サイクル障害などが関与している。身体疾患で入院する患者のうち65歳未満でのせん妄発症は少ないが,75歳以上では1/3を超える。

    ▶診断のポイント

    覚醒度の変化が根本的であり,注意を指標にした軽度の意識の曇りと変化をとらえること,認知症に伴う行動・心理症状(BPSD)と区別することが重要である。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    せん妄の惹起因子としての身体疾患,薬物・薬剤因子への対策,すなわち脱水や便秘,低酸素症,不動,感染症,疼痛への対策およびGABA-A受容体(ベンゾジアゼピン結合部位)作動薬や抗コリン作用の強い薬剤など,せん妄惹起薬剤の中止や切り替えが最重要である。その上で,あるいは並行して薬物療法を行う。せん妄は睡眠覚醒サイクル障害がほぼ必発であるため,その修正を意図した不眠対策が夜間せん妄に有効である。ほとんど高齢者が対象になるため,加齢とともに減少するメラトニン分泌を補うメラトニン受容体作動薬や,認知症や炎症で上昇する知見のあるオレキシンに対する受容体拮抗薬がその役割を果たす1)2)

    発生しているせん妄状態に対しては,抗精神病薬を対症的に用いる。ただし,終末期や低活動型のせん妄への有効性は明らかでない。

    深睡眠を増加させ疼痛対策にもなるガバペンチノイドや,同じく深睡眠を増加させる抗うつ薬のトラゾドン塩酸塩も選択肢となる。脳に直接侵襲のある疾患では,せん妄に引き続いてしばしば通過症候群を呈するため,バルプロ酸ナトリウムなどの抗痙攣薬を用いる。

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