1 腫脹した関節を診察した場合
60歳以上の高齢者で主に片方の膝関節,手関節,肩関節,肘関節,股関節,足関節の腫脹,疼痛,熱感がある場合,様々な関節炎の原因が考えられるにしても,偽痛風性関節炎(偽痛風)を1つの原因として頭に浮かべておく。
偽痛風は60歳以上の高齢者に多く,急性に関節の腫脹と疼痛を生じる場合が多い。痛風とは異なり高尿酸血症のような原因がはっきりしない病気であり,治療法も確立していない。X線検査で関節軟骨や半月板などに石灰化陰影を認め,偏光顕微鏡で関節液にピロリン酸カルシウム結晶が認められれば診断できる。しかし,X線検査で石灰化陰影がみられない場合や関節液が採取できない場合,採取できてもピロリン酸カルシウム結晶が検出できない場合,過小診断されている可能性が高い。
何よりも急性で濁った関節液がたまった関節炎では常に感染性関節炎との鑑別が重要となる。
2 X線検査で関節に石灰化陰影があったら
肩関節の石灰沈着性腱板炎は夜間に眠れないほどの肩の疼痛を生じることもあり,X線検査では石灰化陰影を認める。この場合,石灰化陰影の原因はリン酸カルシウムである。高齢者の膝関節の半月板に石灰化陰影を認める場合はピロリン酸カルシウム結晶の沈着がほとんどである。
3 関節液が濁っていたら
採取した関節液が濁っている場合,高度な炎症,関節リウマチ,痛風,偽痛風,感染を疑う。急を要しない関節リウマチや痛風との鑑別は困難ではないが,早期の診断と治療を要する感染性関節炎との鑑別は必ずしも容易ではない。
4 感染性関節炎との鑑別が重要
感染性関節炎は診断が遅れると関節の機能障害を生じたり死に至ることもあり,迅速で正確な診断と治療が必要である。採取した関節液が濁っていた場合は,偏光顕微鏡で尿酸結晶やピロリン酸カルシウム結晶の有無の検査,菌塗抹検査と菌培養検査が必須であるが,検査結果が出るまで時間がかかる。関節液に尿酸結晶かピロリン酸カルシウム結晶が検出されれば,痛風性あるいは偽痛風性と鑑別がつき,ひとまず安心ではあるが,感染性関節炎との合併もありうるので,治療は慎重に行う必要がある。
5 治療
現在のところ,偽痛風を直接抑える薬剤や予防する薬剤はない。治療としては,関節炎を生じている関節の安静,凍傷にならない程度に冷却,湿布や塗り薬などの消炎鎮痛外用薬,経口非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の投与がスタンダードである。コルヒチンの投与で効果があるとの文献も欧米には多いが,コルヒチンは日本人には副作用の感受性が高く,また偽痛風は保険適用外であるため使用しにくい。関節穿刺後に長時間作用性ステロイドのトリアムシノロンアセトニド(ケナコルト®)を注入すると関節炎が速やかにおさまることが多い。しかし,感染性関節炎の場合は感染を逆に増悪するので筆者は関節液が濁っている場合はステロイドを注入していない。
再発を繰り返し,NSAIDsによるコントロール不良例には,糖尿病や緑内障がなければ経口プレドニゾロン10mgから開始し漸減している。その後2~24週で再発はおさまることが多い。