No.5110 (2022年04月02日発行) P.6
菊池 亮 (ファストドクター代表取締役/医師)
登録日: 2022-03-31
最終更新日: 2022-05-06
新型コロナウイルス感染症の拡大により一部地域の医療提供体制が機能不全に陥る中、民間の時間外救急プラットフォームとして自治体などと連携し社会的ニーズに応えてきた「ファストドクター」。患者向け救急医療サービスとして知られるファストドクターが展開するもう1つのサービスが、かかりつけ医機能の充実に向けた医療機関のサポート事業だ。同社が目指す新たな社会貢献の姿について、医師の菊池亮代表に話を聞いた。
創業のきっかけは原体験に結びついています。私がファストドクターを立ち上げたのは2016年、まだ働き方改革が叫ばれ始めたころのことです。大学病院の整形外科に所属して当直も多く、非常に忙しい毎日を送っていました。たくさんの患者さんが救急搬送されてくるのですが軽症な方も一定数いて、医師も疲弊しますし、重症度に応じて優先順位をつけて診ていくので患者さんも満足しない。双方にとってあまりよい環境ではないと感じていました。
こうした思いがある中、関連病院にいた時、転院が必要な重症な患者さんの入院調整をしたところ、20施設目でようやく受け入れが決まるということがありました。断る理由はどこも「忙しいから」というもので外科医として痛いほど理解できました。「軽症な患者さんは初期救急で、中等症以上は二次・三次救急へ」という当たり前の体制を構築していくことが大切だと実感したのです。
全国で1500人を超える先生が活動してくれています。コロナ禍で、「患者向け救急医療サービス」というイメージが医師の先生にも強いと思いますが、ファストドクターのミッションは、「生活者の不安と、医療者の負担をなくすこと」の実現です。
高齢化がピークを迎える2040年に向けて、かかりつけ医機能の充実が求められています。通院困難な高齢者が増えることが確実な一方で、多くの開業医の先生はいわゆる“ワンオペ”で頑張っています。医師の高齢化も進むことを考えると気力体力でどうにかできる問題ではありません。地域医療の24時間体制化を仕組みとしてどう整えていくか、ということを考える必要があるのです。
コロナ禍での開業医の先生は、日常診療の合間に発熱診療を実施することが難しい状況でした。そんな中で感染者が増加し、病床の逼迫も重なって、医療体制の機能不全が生じました。そこで当社は開業医の先生に代わって第1波のころから発熱診療に取り組んできました。かかりつけの患者さんが発熱したけれど対応できない場合、依頼を受けて当社が検査や診療を代行し、症状が改善したらお返しする、ということを始めました。
当時はまだ発熱相談センターや保健所窓口の体制も今ほど強化されておらず、この代行サービスは非常に喜ばれました。発熱診療だけではなく、24時間体制が求められる在宅医療でもこうしたニーズがあると感じています。
非常勤の先生を雇うにはコストの問題もありますし、医療の質を担保しなくてはいけない部分もあり、さまざまな負担が伴います。コロナ禍をきっかけに、当社が展開する事業の社会的意義に賛同してくれる先生が登録者として増えたので、開業医の先生が利用しやすい、比較的安価で良質な在宅医療の代行サービスを提供することが可能になっています。
電話対応から往診代行、看取りなどの医療行為に加え、看護師が行う相談や診療後のフォローアップも代行します。医師の実働を減らすだけでなく、看護師や事務長の負担も減らし、クリニックをトータルでサポートしていくイメージになります。
クリニックの院長として経営にコミットする時間を確保できるようになります。経営者兼常勤医になってしまうと次の経営的な打ち手を考える時間すら持つことが難しくなります。夜間往診があれば翌日の診療にも響きます。また在宅医療の規模を拡大したくても、夜間対応が難しいために諦めるケースもあると思います。
当社に委託してもらえれば、日中のパフォーマンスも上がり、在宅療養支援診療所の算定要件を満たすこともできるので安定的な経営につながると考えています。あくまで代行という立場なので、当社の医師が患者さんを継続して診ることはありません。
働き方改革が進むと時間外労働の上限規制により、アルバイトとして外勤に行く先生が減り、施設ごとに当直医を確保することが難しくなります。施設単位で考えるのではなく、連携によって24時間体制を築いていくという発想への転換が必要だと思います。
在支診だけでなく一般診療所の在宅診療にもサポートサービスを広げていきたいと考えています。課題は、在宅医療で求められている医療の質をどう担保していくかです。在宅の現場では、主治医の先生と患者さんの間で培われてきたACPを尊重することが大切で、医療だけでない総合的な人間力が求められます。在宅現場で患者さんとしっかり向き合うことができる人材の育成に向けて、教育に力を入れています。
全国に約10万施設あるクリニックのかかりつけ医機能を高めていくお手伝いをする、これが今後の目標です。
(聞き手:土屋寛)