主にコガタアカイエカが媒介する日本脳炎ウイルスによって起こるウイルス性脳炎である。ワクチン普及により激減したが,蚊の活動時期(5~10月)に,関東以西で高齢者を中心に毎年10人未満の発症がある。特異的治療法はなく,約1/3の患者が死亡したり,神経学的後遺症を残す1)。
蚊の刺傷歴は日本脳炎を疑う重要な情報である。急な発熱,頭痛,嘔吐などで発症し,数日以内に意識障害,痙攣,不随意運動,眼球運動障害,球麻痺,四肢麻痺などの神経症状がみられる。
髄液検査では,細胞数は正常~単核球優位の細胞数増多,蛋白は正常~軽度上昇,糖は正常範囲内である。脳MRIの拡散強調画像やFLAIR画像では,急性期から視床,基底核などに対称性の異常信号を認めることがあり,早期診断に有用な所見である。脳波では,意識障害を反映して徐波化がみられる。
確定診断は,①血液・髄液からのウイルスの検出またはPCR法によるウイルス遺伝子の検出,②血清・髄液からのIgM抗体検出,③血清IgG抗体の陽転または有意上昇,によって行われる。これらの検査は,衛生研究所や検査会社などの専門機関で行われるが,結果判明に1週間以上を要することもある。
日本脳炎を含む急性脳炎はすべて神経学的緊急症であり,疑われた時点で専門医がいる医療機関に搬送する。急性期には,頻度も高く抗ウイルス薬の早期治療が予後に影響する単純ヘルペス(HSV)脳炎,ステロイド治療が有効な急性散在性脳脊髄炎や自己免疫性脳炎,その他の鑑別診断を行いながら,支持療法と合併症対策を行う2)。
臨床症状からウイルス性脳炎が強く疑われれば,呼吸,循環,意識レベルの評価,血液検査の後,頭部画像検査(CT,可能であればMRI)を行う。脳ヘルニア徴候や出血傾向などの禁忌事項がなければ髄液検査(一般検査,細菌培養,HSV DNA高感度PCR)を行う。鑑別診断の検査用に,急性期の髄液や血清は分割して保存する。臨床所見,画像所見,髄液所見から急性脳炎が否定できなければ,HSV脳炎を念頭にアシクロビル(ACV)の投与を開始する2)。日本脳炎の診断が確定すれば,ACVを中止の上,支持療法と亜急性期からリハビリテーションを行う。
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