私にとって至極の教本となったその彼は、左脚を大きく引きずって私の前に現れた。「認知行動療法(CBT)? 手術で完治させたいんですよ!」。今から12年前、初対面の時、20代後半の若者から鋭い眼光を向けられ私は動揺した。建設現場で腰を強打し、現在の診療ガイドラインとは逆行する安静入院がファーストタッチの治療方針だった。会社の対応も悪く、彼の感情は不安と怒りに満ちていた。案の定痛みは遷延化し、その後紹介された専門医が注目したのがHIZ(high signal intensity zone)。椎間板内の線維輪の後方の小さな塵のような白い点(写真矢印)はTNF-αが多いとも報告されており、私も特に亜急性期において診断根拠とすることがある椎間板由来の侵害受容性疼痛を疑う所見だ。椎間板造影+ブロックを受けHIZが痛みの原因と判断され、手術専門病院に紹介された。そこでの有名ドクターが、心理社会的ストレスが強く手術してしまって大丈夫か?と疑問を持たれた。一方、本人は手術が見送られたことに不満があった。
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