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先天性耳瘻孔[私の治療]

No.5124 (2022年07月09日発行) P.54

仲野敦子 (千葉県こども病院医療局長)

登録日: 2022-07-06

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  • 耳介は胎生5~6週頃に,第一および第二鰓弓由来の6個の耳介小丘が複雑に発達・癒合して形成されるが,先天性耳瘻孔はその癒合不全により発生すると考えられている1)。100人に1~2人でみられる,比較的頻度の高い疾患であり,無症状の場合は特に治療の必要はない。一側性のことが多いが,両側性にみられることもある。

    ▶診断のポイント

    先天性耳瘻孔のうち約9割は耳前部の皮膚に瘻孔を認める。その他,耳輪脚基部や後耳輪部など様々な位置に発生する。

    感染に伴い瘻孔から膿の排出を認める場合,瘻孔周囲が腫脹し発赤を伴う場合のほか,瘻孔からやや離れた耳前部に膿瘍を形成することがある。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    症状を伴わない先天性耳瘻孔は治療の対象とはならない。瘻孔周囲に腫脹を認めるものの,皮膚の発赤や疼痛を伴わない場合も治療の必要はない。常時瘻孔から白色のアテローム様物質が排出される場合でも,感染ではないため薬物療法の対象ではない。しかし,成人で常時アテローム様物質の排出があり,日常生活での支障を訴えるような場合は手術による摘出も検討する。

    瘻孔周囲の発赤・腫脹を認める場合は,抗菌薬投与を行う。感染の原因は主にブドウ球菌であり,経口セフェム系抗菌薬などを選択する。抗菌薬投与でも改善が認められない場合は,穿刺による排膿,起炎菌の同定を試みる。膿瘍が大きく穿刺だけでは改善が見込めないような場合は,切開排膿とする。切開する場合は,今後の手術摘出のために,極力瘻孔壁の損傷の可能性が少ない部位に切開を行う。切開後および自壊した場合は,洗浄等を行う。

    感染の反復や切開排膿を要する感染を起こした場合は,摘出術の適応となる。感染を制御しないままに摘出術を実施しても,再発率には差がないという報告もある2)が,瘻管を完全摘出しないと再発するため,感染を制御した後に実施することが望ましいとされる。しかし,経口抗菌薬では制御できない場合や,抗菌薬中止後すぐに感染を反復するような場合は,数日抗菌薬を静注した後に摘出術を行う。感染が制御できないまま手術を実施すると,感染部位(肉芽や菲薄化した皮膚)なども合併切除することになる。

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