【Q】
インフルエンザ(新型インフルエンザ,鳥インフルエンザを除く)の伝播予防についてご教示下さい。また,インフルエンザ罹患者の業務復帰(復職)可能時期はいつ頃と考えればよいのでしょうか。発病した医療スタッフの場合はどうでしょうか。迅速診断キットで陰性を確認するべきですか。 (岐阜県 K)
【A】
一般的な伝播予防策としては,インフルエンザワクチンの接種,飛沫感染対策としてのサージカルマスクの着用と咳エチケット,接触感染対策としての手指衛生,罹患者の病室隔離,咽頭粘膜の保湿(マスク,うがい,加湿器など)などが勧められます。
インフルエンザワクチンには,感染を完全に阻止する効果はありませんが,発病予防や発症後の重症化の予防について,ある程度の効果を期待できます。ただし,近年,流行株とワクチン株が一致していても発病予防効果が50%未満であったという報告や,ウイルス抗原変異により2014~2015シーズンの有効性が23%であったという報告が相次いでおり,伝播予防をワクチンのみに頼ることは勧められません(文献1,2)。インフルエンザの感染伝播を予防するためには,咳エチケットや手指衛生,罹患者の病室隔離などの感染経路対策を効果的に組み合わせて実行する必要があります。
また,医療者が適切な感染経路対策を行わずに発症患者に接触してしまい,なおかつ発症時期を予測した就業規制を行えない場合,あるいは,入院患者が発症して周辺患者がインフルエンザウイルスに曝露したと考えられる場合などには,ノイラミニダーゼ阻害薬の予防投与を検討します。オセルタミビル(タミフルR)とザナミビル(リレンザR)の予防投与によるインフルエンザ発症阻止効果は55~60%程度と報告されています(文献3,4)。副作用や費用負担の問題もあるため,適応を慎重に検討する必要がありますが,伝播予防策の選択肢の1つになります。
医療施設職員がインフルエンザに罹患した場合には,病原体を多量に排泄すると想定される期間の就業を規制します。罹患職員が感染源になることを防ぐとともに,感染した職員本人の健康が回復するための治療や休養の時間を確保します。一般企業に勤める患者の場合にも同様の対応が勧められます。インフルエンザウイルスの排出期間は,健康成人の場合は3?8日間であり,子どもと成人の間に排出期間の差はありませんが,重症例では延長することが知られています。また,抗インフルエンザウイルス薬を発症48時間以内に使用すると,ウイルス排出期間が有意に短縮することが報告されています(文献5)。
就業を規制する期間については,学校保健安全法に準じて「発症した後(発熱の翌日を1日目として)5日を経過し,かつ,解熱した後2日(幼児は3日)を経過するまで」とすることが一般的です。以前は「解熱した後2日を経過するまで」という基準が用いられていましたが,抗インフルエンザウイルス薬が感染判明後直ちに投与されるようになり,感染力が消失していない段階でも解熱してしまうという問題が生じました。従前のような解熱のみを基準にした出席停止期間では感染伝播を予防できないということになり,2012年4月より現行の基準に改正されました。
迅速診断キットの陰性結果の確認を就業規制解除基準にすることは勧められません。診断キットの感度は向上しているものの,偽陰性はいまだ日常的にみられる状況であり,これを根拠にすることは不合理です。補助的な判断材料とすることも,検体採取時の患者の苦痛や費用などの面から勧められません。
1) Centers for Disease Control and Prevention (CDC):MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2013;62(7):119-23.
2) Flannery B, et al:MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2015;64(1):10-5.
3) Jefferson T, et al:BMJ. 2014;348:g2545.
4) Jefferson T, et al:Cochrane Database Syst Rev. 2014;4:CD008965.
5) Fielding JE, et al:Influenza Other Respir Viruses. 2014;8(2):142-50.
? 学校保健安全法施行規則(昭和33年6月13日文部省令第18号)最終改正:平成27年1月20日文部科学省令第1号官報.