どんな本なんやろ。日本医事新報の読者にはおなじみの猫山先生,じゃなくて,その作者の茨木保先生が小説を上梓された。漫画が面白いからといって小説も面白いとは限らない。書評をお引き受けしたものの,失礼ながらちょいと心配しながら読み始めた。
まったくの杞憂だった。あまりに面白くて,文字通り一気に読み終えた。「猫山先生」のイメージとはまったく違って,実にリアルな医療小説である。大きな事件が起こるわけではない。だが,それだけに作者の力量が問われる作品だ。
ほとんど知らなかったが,産婦人科の日常というのはきっとこういうものなのだろう。医師の書いた医療小説であっても,おいおいそれはちょっとなかろうと思うことがあったりするのだが,そんな違和感はゼロ。茨木先生の医学知識がいかに正確で幅広いものであるかがよくわかる。意外,と言ったら叱られるか。
主人公は奈良県立大和医科大学出身の研修医・那須悠介である。発達障害を思わせる不器用な先生だが,本人は常にいたって真剣だ。ちょっとしたミスで大学を追われるが,赴任先の病院には医学生時代から憧れていた先輩の女性医師・葉山美智留がいた。
新人のおかしがちな医療ミス,きわめて稀だけれどありえる症例,患者に寄り添いすぎるがゆえの医療事故,LGBTQの問題,患者さんの看取りなど,じつに様々なテーマがわかりやすく,そして心温まるエピソードとして描かれていく。医師としての成長と並行して進行する,あまりにウブな那須の初恋は,まったく予想もしなかった展開を見せる。そして最後,タイトルの『間(あわい)』が何を意味するかが明かされる。
緊張感あり,笑いあり,涙あり,これまでになかった医療小説だ。ただ,ひとつだけ気になることがある。本物語は実在の人物とは一切関係ないと書かれている。でも,ひょ,ひょっとして,那須にはモデルがいて,茨木先生の若い頃やったりするんとちゃいますのん?