喉頭癌は全頭頸部癌の20%強を占め,2021年の予測がん罹患数は男性4900人,女性400人の計5300人,予測がん死亡数は男性800人,女性100人の計900人であり,男性優位な疾患である。97~98%が扁平上皮癌であり,他の頭頸部癌と比べて肺癌との合併が多く,喫煙が最大の危険因子である。70~80歳代にピークを認め,高齢化に伴い罹患数は上昇傾向であるが,喫煙率の低下で年齢調整罹患率は漸減傾向にある1)。
喉頭には声門上,声門,声門下の3つの部位があり,喉頭癌患者の60%以上が声門癌である。ついで声門上癌が約30%であり,声門下癌は少ない。
喉頭は発声・嚥下に関わり,喉頭癌の治療においては機能温存が強く望まれる。機能温存と根治性のバランスをとりながら,治療方針を立案しなければならない。
喉頭癌の症状として,嗄声,咳嗽,咽喉頭部の異常感,発熱,局所の発赤・腫脹・疼痛,出血(血痰),呼吸困難が挙げられる。声門上癌では咽喉頭異物感,嚥下時痛,頸部リンパ節腫脹が初発症状に多く,声門癌では嗄声が多い。声門下癌では症状が出にくいので,受診時には進行していることが多い。
喉頭ファイバースコープによる視診が有効であり,確定診断には内視鏡下生検が必要である。腫瘍の進展範囲やリンパ節転移の有無に関する診断では,CTやMRIなどの画像診断を用いる。重複癌や遠隔転移検索のために,胸部CTや消化管内視鏡検査も治療前検査として勧められる。
がんの治療であるため,第一によりよい生命予後が得られる治療法を選択することになる。しかし,発声・嚥下に関わる機能を有する部位のため,同じ生命予後が得られるのであれば機能温存のできる治療法を選択することになる。また,喫煙・飲酒を続けてきた患者が多いことから,重複癌が生じたときの治療も予測して治療法を選択することになる。さらには,高齢者や余病を抱えた患者では,治療完遂の可能性とともに,治療後の社会復帰を支える周囲のサポートがどの程度受けられるのかを見きわめなければならない。
基本的には,ステージⅠ期やⅡ期(早期癌)の場合は,放射線療法(単独)や喉頭温存手術(経口腔手術または外切開部分切除術)が選択される。進行癌では喉頭全摘出術が基本となるが,失声回避のため化学放射線療法も選択肢となる。
喉頭機能温存の目標として,電話での会話が可能であること(構語機能),外食が可能であること(嚥下機能),肩まで入浴が可能であること(鼻呼吸)を掲げている。それぞれの可否を予想・評価して説明を行っている。これらすべてが満たされれば完全なる社会復帰が可能となり,「完全喉頭機能温存」と定義している。
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