厚生労働省は9月22日、「医療DX令和ビジョン2030」厚労省推進チームの初会合を開いた。医療DX令和ビジョン2030は、医療DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進で医療の効率化や医療資源の適正な利用、創薬や新規医療機器の開発などの実現を目指し、自民党政務調査会が5月にまとめた提言で、政府の骨太方針2022に「行政と関係業界が一丸となって進める」と盛り込まれた。10月中に岸田文雄首相を本部長とする医療DX推進本部が発足する。政府が本腰を入れて進める医療DX令和ビジョン2030について解説する。
厚労省推進チームの参加メンバーは、加藤勝信厚労相をチーム長とし、事務次官、医務技監などで構成。医療DXの推進に向けた取組の状況や今後の進め方等について、率直な意見交換や意思決定を行えるよう、会合は非公開で進める方針だ。議論の結果は随時、政府の医療DX推進本部に報告。重要論点となる「電子カルテ・医療情報基盤」「診療報酬改定DX」については、別途タスクフォースを設置し月1~2回の頻度で検討を進めていく。
医療DXは「保健・医療・介護の各段階(疾病の発症予防、受診、診察・治療・薬剤処方、診断書等の作成、診療報酬の請求、医療介護の連携によるケア、地域医療連携、研究開発など)で発生する情報やデータを、全体最適された基盤を通して、保健・医療や介護関係者の業務やシステム、データ保存の外部化・共通化・標準化を図り、国民自身の予防を促進し、より良質な医療やケアを受けられるように、社会や生活の形を変えること」と定義されている。マイナンバーカードによるオンライン資格確認の導入もその一環だ。デジタル技術の進歩で社会全体のDX化が加速する一方、医療分野においてはDX化の遅れが指摘されてきた。
また、新型コロナ感染症の拡大で、データのデジタル化が進んでいないことが日本医療の弱点として浮き彫りになり、迅速かつ適切な情報収集を可能にするシステムの構築が喫緊の課題となっている。
医療DX令和ビジョン2030は、①全国医療情報プラットフォームの創設、②電子カルテ情報の標準化、③診療報酬改定DX─を3本柱とする。健康医療情報システムの構築は、国民の健康維持増進と健康寿命延伸に不可欠であるにもかかわらず、その情報源となる電子カルテ普及率が2017年度のデータで一般病院46.7%、診療所41.6%(2021年では一般病院57.2%、診療所49.9%)に留まる点を問題視している。
「全国医療情報プラットフォーム」(図)は、現在バラバラに保存されている国民の健康・医療情報を集約して、保存・活用するためのシステム。オンライン資格確認システムのネットワークを拡充し、レセプト・特定健診情報に加え、予防接種、電子処方箋情報、電子カルテなど医療機関等が発生源となる医療情報(介護含む)について、クラウド間連携を実現し、自治体や介護事業者等間を含め、必要なときに必要な情報を共有・交換できる全国的なプラットフォームとする。これにより、マイナンバーカードで受診した患者は、本人同意の下、これらの情報を医師や薬剤師と共有することができ、より良い医療につながるとともに、国民自らの予防・健康づくりを促進できる。さらに、次の感染症危機において必要な情報を迅速かつ確実に取得できる仕組みとしての活用も見込まれる。
診療報酬情報提供書、退院時サマリー、健診結果報告書と傷病名、アレルギー情報、感染症情報、薬剤禁忌情報、検査情報、処方情報の「3文書6情報」が対象とされている。
「電子カルテ情報の標準化」では、電子カルテ情報・交換方式の標準化と標準型電子カルテの検討を進める。電子カルテ情報・交換方式の標準化については、全国医療情報プラットフォームでの情報の共有・交換を可能にするため、交換規格に国際標準となりつつある「HT7 FHIR」を採用。交換する標準的なデータ項目や電子的仕様を定め、国として標準規格化する。
また医療情報の共有は、電子カルテ未導入の医療機関では不可能なため、電子カルテ普及率の目標を2026年までに80%、30年には100%と設定。普及率100%を実現するために、クリニックなど小規模医療機関向けの標準規格に準拠したクラウドベースの安価な電子カルテ(標準型電子カルテ)の開発を検討する。2022年度は関係者へのヒアリングを実施しつつ、2023年度の調査研究事業を実施する予定としている。
ビジョンではこのほか、①閲覧権限を設定する機能や閲覧者を患者自身が確認できる機能の実装、②診療を支援し、作業を軽減する機能の実装、③検査会社との情報連携の方法の決定、④介護事業所などにも医師が許可した電子カルテ情報について共有可能にする─などの検討も行うとしている。
「診療報酬改定DX」では、診療報酬改定のスケジュール上、ベンダや医療機関等において2月上旬の答申から4月1日の施行まで、短期間で集中的に改定に対応する必要があるため、大きな業務負荷が生じていると指摘。複雑化している診療報酬点数表や疑義解釈などへの迅速な対応に、各ベンダは多くの人材を投入する必要があり、それに伴いレセコンや電子カルテの運営費用が高くなるなどの影響が出ている。
そこでビジョンでは、改定施行日(4/1)からの患者負担金の計算に間に合うようにソフトウェアを改修する必要がある現状を改善し、作業負荷を軽減するため各ベンダがそれぞれ行っている作業を1つにまとめて効率化していくことを目指す。また各ベンダ共通のものとして活用できる「共通算定モジュール」を導入し、診療報酬改定においても算定モジュールの更新を行うことで実施できるようにすることも検討していく。
医療DXの推進のカギとなるのは、院内ICTの要となる電子カルテの導入促進だ。電子カルテが認められた1999年から20年以上が経ち、各ベンダがそれぞれの規格開発を進めてきた。一丸となって改革を進めるには、国が定める統一規格へのスムーズな移行を促すベンダ向け施策と、医療機関が負担なく電子カルテの導入・切り替えを進められるような補助金などの環境整備も並行して行う必要がある。