肺癌に対する標準術式は,肺葉以上の肺切除+系統的リンパ節郭清である。しかし実は,リンパ節郭清が予後に及ぼす意義についての確固たる根拠は乏しい。リンパ節の摘出には周囲脂肪織と一塊にして摘出する系統的郭清と,リンパ節のみを摘出するサンプリングがあるが,両者を比較した臨床試験の結果は,郭清群の予後が良いとするものと差がないとするものが混在し,結論には至っていない。しかし,サンプリングでは約3.8%の転移リンパ節を見落とす危険性が指摘されており1),正確な病期診断に伴う適切な術後補助化学療法の選択という観点では,系統的郭清が優っていると考えられる。
一方,適切な郭清範囲についても明確な定義はない。一般に縦隔リンパ節郭清は,肺癌取扱い規約に定められた第2a群までの郭清を指すことが多い。しかし,肺葉ごとに転移しやすいリンパ節のみを郭清する選択的郭清も,一般臨床では広く行われている。ただ,選択的郭清の範囲も明確な定義があるわけではない。
このような背景をもとに,日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)の肺がん外科グループでは,系統的郭清と選択的郭清を比較する臨床試験を計画している。統計学的に意味のある研究とするためには,非常に多くの症例の集積と長期間にわたる経過観察が必要となるが,混沌とした状況に明確な科学的根拠を与えてくれるものと期待される。
【文献】
1) Allen MS, et al:Ann Thorac Surg. 2006;81(3): 1013-9.
【解説】
中田昌男 川崎医科大学呼吸器外科教授