20~30歳代の成人に多く,小児・高齢者には少ない。他の深頸部膿瘍に比べて糖尿病など易感染性のみられる症例は多くない。三学会合同抗菌薬感受性サーベイランスにおいて,検出菌として136株(58.4%)が嫌気性菌であった。嫌気性菌はプレボテーラ属が68株(29.2%),フソバクテリウム属が31株(13.3%),ペプトストレプトコッカス属が4株(1.7%)とその他であった。好気性菌では化膿性レンサ球菌が18株(7.7%),インフルエンザ菌と黄色ブドウ球菌が各2株(0.9%),その他が検出された1)。
扁桃腫脹,周囲炎,片側腫脹,口蓋垂の偏位等がみられる。画像診断としては頸部造影CTが推奨される。造影を行わないと膿瘍形成が確認できず,見逃すことがある。
細菌性扁桃炎に随伴して扁桃周囲炎・扁桃周囲膿瘍をきたし,多くの症例で開口障害を起こす。扁桃周囲炎が扁桃周囲の側咽頭間隙から外側翼突筋に及ぶと開口障害をきたすため,逆に開口障害があれば本疾患を疑う。伝染性単核球症などウイルス性急性扁桃炎との鑑別も要する。
経口水分摂取が可能であれば通院を検討するが,経口摂取が不十分であれば輸液を考える。いずれの状況でも扁桃腫脹に伴う呼吸への影響を考慮しておく必要がある。
疼痛による嚥下障害を起こしやすく,飲水困難な場合は急変時も考慮し入院加療が推奨される。扁桃周囲膿瘍が進行した場合,降下性膿瘍をきたし致死的になることもある。
筆者は開口障害がある場合は,膿瘍穿刺を試みるようにしている。十分な排膿がなくても咽頭間隙の腫脹緊張が軽減し,開口が容易になることが多い。膿瘍成分が吸引されれば切開排膿を行うが,開口でき視野と呼吸が容易になった状態で行うことが望まれる。切開はThompson点やChiari点が有名であるが,観察される腫脹から扁桃皮膜外側に沿ってメスで切開する。さらに麦粒鉗子を挿入し扁桃皮膜に沿って切開創を広げ,排膿を進める。切開創に幅1cmほどのガーゼを挿入し,切開創の閉鎖が起きないようにするとされるが,筆者は挿入したガーゼが嚥下紛失した経験から,排膿がある場合は回診時などに鈍的に開創を繰り返している。排膿がなくなり開創を実施しなければ,創は自然に閉鎖する。
急速に進行する場合は膿瘍形成の可能性とともに急性喉頭炎,急性喉頭蓋炎,喉頭浮腫を併発する可能性があり,扁桃周囲炎を診断した場合には上述の疾患の併存やその後の随伴の可能性を意識して診療にあたる必要がある。
気道狭窄の判断を含め,扁桃周囲炎・扁桃周囲膿瘍を疑ったときに,造影CT検査は膿瘍の程度や位置の確認に有効である。
気道狭窄や深頸部膿瘍や縦隔膿瘍など,致死的状況が起こりうることを意識する。
残り832文字あります
会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する