上咽頭癌はその大半がEpstein-Barrウイルス(EBV)によるウイルス関連癌であり,初診時に頸部リンパ節転移を伴うことが多い。わが国では稀な疾患であるが,他の頭頸部癌と比較すると若年者に多い。高齢者の滲出性中耳炎を診たときに疑う疾患のひとつでもある。
頸部腫脹,鼻出血・鼻漏・鼻閉などの鼻症状,難聴・耳鳴などの耳症状で受診することが多い。進行すると外転神経麻痺による複視,下位脳神経麻痺による嚥下障害,嗄声など多彩な脳神経麻痺症状を呈する。
鼻咽喉ファイバースコープで腫瘍を判別する。上咽頭後上壁,側壁が好発部位である。耳管咽頭口が腫瘍によって閉塞されると,滲出性中耳炎を呈する。ステージングには造影MRI,造影CT,PET検査を行う。
頸部リンパ節腫脹は,上頸部を中心に両側性であることが多い。しばしばルビエールリンパ節転移を伴う。病理組織型は大半が扁平上皮癌であり,角化型(WHO type-I)と非角化型(WHO type-Ⅱ低分化型,WHO type-Ⅲ未分化型)に分類され,角化型はEBV陰性,非角化型はEBV陽性であることが多い。
上咽頭癌は中国や台湾,東南アジアに多く,これら多発地帯ではEBV陽性非角化型が大半である一方,日本は非多発地帯であり,EBV陰性角化型も10%程度認める。EBV陽性非角化型は,転移リンパ節が大きいわりに原発病巣が小さいことがあり,当初原発不明癌と診断されることがある。
in-situ hybridization(ISH)による頸部リンパ節からのEBER(EBVが潜伏感染時に産生する小RNA)検出は,原発巣探索に有用である。
上咽頭癌の大半は非角化型であり,放射線・化学療法の感受性が高いこと,上咽頭は頭蓋底に隣接するため十分な安全域をつけた手術が難しいことから,シスプラチンを併用する化学放射線療法(CRT)が第一選択となる。根治的CRTの前に行う導入化学療法・治療後の補助化学療法は,十分なコンセンサスが形成されていないが,局所進行例において治療成績向上に寄与するという報告もあり,多職種参加のユニットカンファレンスで妥当性を判断後,症例に応じて行っている。
根治的CRTの治療効果判定は,治療終了後3カ月でのMRI,PETで行う。切除可能な遺残性/再発性頸部リンパ節に対しては,選択的/超選択的頸部郭清術を行い侵襲性の低減を図る。切除可能な限局性の遺残性/再発性原発病変に対しては,内視鏡(補助)下手術や再照射を行う。切除不能な再発・転移性病変に対しては薬物療法を行う。
EBV陽性のウイルス関連癌は,EBV陰性のウイルス非関連癌に比べ予後が良いとされているが,EBV感染の有無で治療方針を変えることのエビデンスはない。
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