【質問者】
杉本 晃 帝京大学ちば総合医療センター耳鼻咽喉科講師
(1)耳下腺腫瘍の特徴
耳下腺腫瘍は,喉頭癌,舌癌などの頭頸部悪性腫瘍と比較して取り扱いが難しいという特徴があります。
1つ目の特徴は病理組織型の多様性です。頭頸部悪性腫瘍の90%を占める組織型は扁平上皮癌ですが,耳下腺には唾液腺導管癌,粘表皮癌,腺癌,扁平上皮癌など20種類以上の組織型があります。さらには良性,悪性の診断でさえも困難なこともあり,「病理診断医泣かせ」の臓器とも言われます。
2つ目は顔面神経の存在です。コミュニケーションにおいて大切な表情をつくり出す顔面神経が耳下腺のほぼ真ん中を貫いており,生検,手術などあらゆる操作において顔面神経損傷のリスクを考えなければいけません。
(2)一般的な診断方法と問題点
一般的な耳下腺腫瘍の診断方法は,診察(問診,触診),画像検査(MRI,CT,超音波検査),生検〔穿刺吸引細胞診(fine-needle aspiration:FNA),針生検(core-needle biopsy:CNB)による組織診,切開生検による組織診〕の3つが主となります。多くの施設では,CT,MRIで画像診断を行いFNAを行っていますが,その場合の感度は60〜80%となり,良性の診断で手術をして3〜4人に1人は術後に悪性と判明することになります。この場合,再手術を行うか,治療効果が判然としない放射線治療を追加するか,厳重経過観察を行うことが一般的と考えられます。悪性腫瘍と良性腫瘍で安全域を考慮した切除ラインが異なること,手術前後に診断が変わることは患者との信頼関係においても好ましくないことなどが指摘されています。
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