アルコール依存症は,アルコール使用がその人にとって以前にはより大きな価値を持っていた他の行動より,はるかに優先するようになる一群の生理的,行動的,認知的現象と説明される。アルコールを使用したいという欲望はしばしば強く,抵抗できない1)。
ICD-10のアルコール依存症の診断基準によれば,以下の6項目のうち3項目以上が,1カ月以上にわたり同時に生じていたか,1カ月未満の場合は12カ月以内に繰り返し同時に生じた場合にその診断を下すことができる。以下にアルコール依存症の6項目の症状を示す1)。
①渇望:飲酒したいという強い欲望,切迫感
②自己制御困難:物質摂取行動(開始,終了,量の調節)を制御することが困難
③離脱:アルコールの中止や減量による離脱症状の出現
④耐性:反復使用による使用量の増加
⑤アルコール使用のために本来の生活を犠牲にする。アルコールに関係した活動(使用,影響からの回復)に費やす時間が増加する
⑥有害性(心身に問題を生じている)があるにもかかわらず飲酒を続ける
アルコール依存症の治療では,認知行動療法などの心理社会的治療が主体となり,薬物療法は補助的役割を担う。以下にアルコール解毒と,それに続く再飲酒の予防について解説する。
飲酒の制御困難の典型として連続飲酒がある。連続飲酒とは,酒を数時間おきに飲み続け,絶えず体にアルコールのある状態が数日~数カ月も続く状態である。連続飲酒の間,食事を摂ることはほとんどない。初めは酔いを求めてこの飲酒パターンを始めても,やがて酒が切れると離脱症状が出るので,それを抑えるために飲む,というパターンに変わっていく。連続飲酒や離脱症状を抑えるために,まずはアルコール解毒を行う。
第一選択薬はベンゾジアゼピン系作動薬である。その際,高齢者でない限り,ジアゼパムなどの長時間作用型ベンゾジアゼピンの使用が推奨される。離脱症状に対する薬物療法の適応や減量に関しては,離脱症状の程度と薬物の効果を繰り返し観察しながら,適切な使用量を決定する。その際,CIWA-Ar(Clinical Institute Withdrawal Assessment scale for Alcohol, revised)のような離脱症状の重症度評価スケールを使うことも推奨される。
離脱症状が軽度な場合(たとえば,CIWA-Arが8点未満)など,不要なケースには薬物療法を行わない。離脱症状が重篤な場合,たとえば,振戦せん妄の治療に関して,欧米ではベンゾジアゼピンの大量投与が推奨されている。わが国では,コンセンサスレベルでのエビデンスではあるが,痙攣閾値に影響の少ないハロペリドールや非定型抗精神病薬がベンゾジアゼピンと併用されてきている。
離断痙攣発作を起こした場合,またはその既往のある場合は,他の離脱症状が軽症であっても,ベンゾジアゼピンを使用する。ベンゾジアゼピンは症状の改善とともに減量し,使用は原則的に7日以内とする。離脱症状が遷延する場合でも,その使用は4週間を超えないようにする2)。
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