3月17日に衆議院内閣委員会に参考人として呼ばれ、「新型インフルエンザ等対策特別措置法(特措法)及び内閣法の一部を改正する法律案」に対して意見を述べる機会を頂いた。依頼が3日前と急なことで戸惑いもあったが、昨年5月に開催された新型コロナウイルス感染症対応に関する有識者会議にプライマリ・ケア医療者の立場で参加した経緯を踏まえて発言した。
法案のポイントは3つある。1つ目は、内閣官房に内閣感染症危機管理統括庁が常設され、内閣官房副長官が内閣感染症危機管理監というトップを兼任、その下で厚生労働省の医務技監が内閣感染症危機管理対策官を兼任する体制がとられることである。コロナ禍では内閣が発出する情報と厚労省の具体的な施策にずれを感じることも多く、現場で戸惑うケースが見られたが、統括庁で情報発信が一元化されることには大きなメリットがある。筆者は、統括庁には厚労省以外の関係省庁(文部科学省、経済産業省など)の人材も取り込み、平時から危機対策のために省庁の垣根を越えた幅広い体制を構築するよう意見した。加えて、リスク・コミュニケーションの重要性を踏まえ、マスコミュニケーションや行動科学、国際保健等に精通する専門家の採用も提言した。
2つ目は、政府対策本部長、つまり首相から、パンデミック初動時にいち早く行政機関や都道府県知事に出す指示権が盛り込まれ、政府・自治体の一体性のある初動が可能になった点である。筆者が働く北海道では2020年2月に道独自の緊急事態宣言が発出され、国の危機感に乏しい雰囲気とのギャップが際立ったが、今後はこうしたことは少なくなりそうだ。とは言え、平時からの連携がないと絵に描いた餅になりかねない点については意見をした。
3つ目は、感染防止のため事業者に対して発動する命令や措置について、その実効性を高めるために国が一定の基準を策定するという点である。確かに、都道府県によって発動条件にばらつきがあり、東京都では都の発出した休業要請に対する事業者からの訴訟もあった。都道府県に一方的に責任を押しつけない体制は望ましい。ただ、要請にあたってはエビデンスに基づいた科学的かつ合理的な判断が重要であり、根拠のない不安や風評に影響されないこと、声が届きにくい若者や子育て世代の意見なども十分踏まえた意思決定が行われることが重要だと指摘した。特定の業者への見せしめのような措置はくれぐれも避けるべきである。
コロナ禍も収束に向かいつつある今こそ、次のパンデミックに備えた体制作りが重要である。政府に丸投げすることなく、我々一般の医療者の立場からもその動きをしっかり見守り、メッセージを発信することが重要であろう。
草場鉄周(日本プライマリ・ケア連合学会理事長、医療法人北海道家庭医療学センター理事長)[総合診療/家庭医療][新型インフルエンザ等対策特措法]