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放射線専門医による遠隔画像診断サービスで早期診断を実現[クリニックアップグレード計画 〈システム編〉(40)]

No.5173 (2023年06月17日発行) P.14

登録日: 2023-06-16

最終更新日: 2023-06-16

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CTやMRIなどによる画像診断技術は、近年急速な進歩を遂げ、診療方針を決める上で重要な役割を果たすようになっている。日本のCT、MRIの設置台数は世界トップクラスで、地域のクリニックでも撮影可能な施設は多い。連載第40回は、放射線診断専門医による遠隔画像診断サービスを活用し、専門領域でも判断に迷うような症例でも早期診断・治療につなげている脳神経外科クリニックの事例を紹介する。

日本では10万人当たりのCT、MRIの設置台数が世界1位である一方、読影を専門とする日本医学放射線学会の放射線診断専門医が約5600人あまりと不足している上に、病院に集中している現状がある。こうした状況から、地域のクリニックでは画像診断を外部に依頼するケースが増えている。

遠隔による画像診断サービスは①病院間で連携して行われる保険診療の「病院連携型」、②運営企業と契約している全国各地の読影医に読影を依頼できる「企業型」─の2つに大別される。読影枚数や返信スピードの柔軟な対応が可能な企業型を活用し、迅速に治療の方向性を提示する診療スタイルを実践しているのが、東京都小金井市にある「いせだ脳神経外科」だ。

病院のシステム的なdelayを解消したい

JR中央線東小金井駅から徒歩2分の医療モールにある同院は、院長の伊勢田努力さんが2015年に開業。伊勢田さんは、日本脳神経外科学会専門医、米国の神経内科専門医の資格を持ち、脳神経外科と神経内科の双方の領域をカバーできるクリニックだ。1.5TのMRIやマルチスライスCTなどを揃え、患者は初診であっても受診当日にMRI検査が可能。充実した検査機器を駆使した丁寧な診療が評判を呼び、近隣だけでなく中央線沿線からも患者が集まる。

「脳神経領域で大病院の外来を受診すると、画像撮影まで1カ月かかることも珍しくありません。そうすると初診から診断、治療の選択肢を提示するまでに数カ月かかることになります。当院は、このシステム的なdelayを解消したいという思いで開業しました。MRIやCTを導入し、できるだけ早く治療までの道筋を提示することを目指しています」(伊勢田さん)

ダブルチェック体制で読影の質を徹底管理

同院が導入している遠隔画像診断サービスは、自身も放射線診断専門医の中山義晴さんが代表を務める株式会社ワイズ・リーディングの「Y’sReport Cloud」(https://ys-report-cloud.site/)というサービス。Y’s Report Cloudを導入したきっかけについて、伊勢田さんはこう語る。

「当院の診療では、画像診断が非常に重要になります。すぐに判別できる所見は私がスクリーニングしますが、迷った症例などで診断の精度を高めるため、放射線診断専門医による遠隔画像診断サービスに依頼することにしました。以前はほかのサービスを約3年間利用していたのですが、読影レポートの質に疑問を抱くケースが何度もありました。別のサービスを探していたところワイズ・リーディングさんのサービスが目に留まり、私以外の専門医の先生が2人体制でダブルチェックを行う質へのこだわりが決め手となってお願いすることにしました。モニター期間があり、実際の導入前にレポートの質を確かめられる点も魅力でした」

Y’s Report Cloudの特徴は、「人の目」と「システム」により品質管理が徹底されている点にある。①依頼画像を送信、②専門スタッフによる読影医師の得意不得意を考慮した読影依頼、③専門医による1次読影、④診断レポートを専門スタッフが校正、⑤経験豊富な医師による2次読影、⑥レポート返信─というのがサービスの流れ。読影医師は90人(2023年5月現在)で、一覧を同社ウェブサイトで公開している。レポートは遅くとも翌営業日までに返信されるシステムだ。

「送られてくるレポートは質が高く、誤字脱字などがないように校正もされいるので、完成度が高く満足しています。料金面も安価で、同じ部位の画像であれば同一料金で枚数制限がない点もクリニックにとっては魅力です。単なるビジネスではなく、地域による医療格差を遠隔サービスで解消することを目指している志の高さを感じます。当院は医療ビルにありますが、撮影機器がない他院の患者さんの画像診断を依頼するケースもあります。ワイズ・リーディングさんは幅広い診療科に精通した読影医の先生を揃えているので、安心して他院からの依頼を受けることができます」(伊勢田さん)

迅速な検査で早期治療につなげていく

デジタル技術の進化により医療現場は大きく変化している。医師・スタッフの負担軽減や患者の利便性向上、医療の質の向上に資するITツールの活用は、地域のクリニックにおいても重要なテーマになる。

「これからの開業医は二極化していくと考えています。政府が進める『かかりつけ医機能』を持つような総合的医療を提供するクリニックと当院のような専門領域に特化したクリニックです。専門クリニックでは、これまで病院が担ってきた高度医療の一部を請け負うことが期待されていると思います。そのためには遠隔画像サービスのような診療支援ツールを上手に活用する必要があります。迅速に検査結果をお伝えするなどクリニックならではの医療を患者さんに提供し、早期治療につなげていくことが大切だと感じています」

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