米国臨床腫瘍学会 (American Society of Clinical Oncology:ASCO)が主催する国際腫瘍学会議「ASCO Breakthrough」がこの夏、日本で初めて開催される(開催期間:2023年8月3日(木)~5日(土)/会場:パシフィコ横浜)。技術革新によりがん治療が日々進化する中、世界各国のリーダーが集結するこの会議でどのような議論が展開されるのか。同会議の共催委員会委員を務める国立がん研究センター東病院の吉野孝之氏に、会議の見どころや注目のプログラム、日本開催の意義などを聞いた。
吉野 ASCO Breakthroughは米国臨床腫瘍学会(ASCO)が米国以外で開催する世界最高峰の学術・啓発イベントです。世界トップクラスの腫瘍学の専門家やオピニオンリーダーがアジアに集結し、技術革新ががん医療をいかに変革させていくかについて議論します。
米国で毎年開催されるASCO の学術集会は、どちらかと言うと「明日にも使える治療の最新情報」を共有する場ですが、ASCO Breakthroughは「今すぐではないけれど、近未来にイノベーションを起こす新しいテクノロジーをどう治療につなげていくか」を中心にディスカッションします。
第1回は2019年にタイのバンコクで開催されました。今回の日本開催が2回目となります。
日本のASCOの会員数は米国以外の国の中で2番目に多いことも、日本が選ばれた理由の1つとしてあると思います。開催に当たっては、日本臨床腫瘍学会(JSMO)と日本癌治療学会(JSCO)がオフィシャルな共催学会として企画段階からサポートしています。すでにオープンになっていますが、第3回のASCO Breakthroughも来年8月に横浜で開催することが決まっています。
吉野 ASCO Breakthrough 2023では将来的に患者さんの治療に使えるような数々の革新的なテクノロジーを取り上げます。
人工知能(AI)、CRISPRとゲノム編集、CAR-T療法と養子細胞免疫療法、次世代マルチオミクス技術、新規治療薬など、がん医療のカギを握る幅広いトピックが議題に上る予定です。
肺がん、胃食道がん、乳がん、ウイルス性がん(頭頸部がん)などアジアに多いがんの治療について、症例を提示しながらディスカッションするパートもあります。ケースレポートも、普通の学会では考えられないような高名な専門家が担当するので、非常にぜいたくなプログラムになっています。
吉野 すべて重要ですが、ゲノム医療を超える次世代マルチオミクス技術を患者さんのケアにどうつなげていくかという8月5日のセッション(Next-Generation Multiomic Technology)は、私自身も座長を務めますので、個人的に非常に楽しみにしています。
吉野 例えば、香港中文大学のTony Mok教授やトロント大学のLillian Siu教授、ハートフォード・ヘルスケアがん研究所のPeter Yu医師長、日本からは世界肺癌学会理事長などを務めた近畿大学の光冨徹哉教授など、グローバルに活躍する先生方が多数登壇します。
8月3日には、光免疫療法の開発を支援する楽天の三木谷浩史社長も登壇する予定です。
吉野 国際的な視点で一番問題になっているのは、「エビデンス・ギャップ」と言いますが、新しいエビデンスや新しいテクノロジーの知識があまりにも多岐にわたりすぎるため、現場で働く臨床医になかなか浸透しないという問題です。ASCO Breakthroughは最新のテクノロジーの情報を凝縮して提供するので、参加すればあらゆる情報が手に入ります。そこが他の会議と大きく違うところだと思います。
世界のトップランナーの話を直接聴けて対面で議論できるというのは大きなメリットです。「エビデンス・ギャップ」を埋めるのにきっと最適な場になると思います。
各国の事情を知ることによって自国にはどのような人材・リソースが足りていないのかということも確認することができます。それが最新の医療を国内に普及させるための基盤整備・政策提言につながります。
吉野 参加すれば必ずインスパイアされると思います。
イノベーションというのは単体で起こるものではなく、最新のテクノロジーとテクノロジーのエッジ同士がぶつかり合うときに想像もしないケミカルリアクションが起こります。ASCO Breakthroughはそういう新しいイノベーションをもたらす可能性を秘めていると思います。
その会議が日本で開催されるというのは、アジア太平洋地域の先生方にとって非常に大きなメリットです。日本にとってはもっとアドバンテージがあって、大舞台を経験すると確実に人材が育つというメリットがあります。
吉野 大きいですよ。世界に対するアピールにもなりますし、日本の国際化にもつながります。世界の視点で自国の現状を見て「これではだめだ」という自覚も促されます。
吉野 プログラムを見ると一見複雑に思うかもしれません。しかし、世界の臨床研究の現場を知るためには一歩踏み出さないといけないので、ぜひ参加してほしいと思います。日本臨床腫瘍学会の会員の方、日本癌治療学会の会員の方は、現地参加の場合でもオンライン参加の場合でも、参加した場合はインセンティブ(参加奨励補助金)として1人4万円(100名まで)が支給されます。
特に若手の先生にはぜひ現地に足を運んでほしい、というのが私の率直な思いです。講演はオンラインでも聴けますが、終わった後のオフライントークが非常に重要です。そこで登壇者の本心をうかがうことで、より理解を深める機会になるでしょう。
■日時
2023年8月3日(木) ~5日(土)
■会場
パシフィコ横浜(神奈川県横浜市西区みなとみらい1-1-1)
■主な登壇者
三木谷 浩史(楽天代表取締役会長兼社長)
Maryellen Giger(シカゴ大学医学物理学委員会放射線学特別教授)
Chris Abbosh(アストラゼネカ トランスレーショナルメディシン シニアディレクター)
吉野 孝之(国立がん研究センター東病院医薬品開発推進部門長、日本臨床腫瘍学会理事/国際委員長)
設楽 紘平(国立がん研究センター東病院消化管内科長、日本臨床腫瘍学会国際副委員長)
Gilberto Lopes(マイアミ大学シルベスター総合がんセンター)
Melvin Lee Kiang Chua(シンガポール国立がんセンター)
■主な実行委員
土岐 祐一郎(日本癌治療学会理事長)
光冨 徹哉(近畿大学医学部外科学特任教授)
Lillian Siu(トロント大学プリンセス・マーガレットがんセンター)
Peter Yu(ハートフォード・ヘルスケア)
Tony Mok(香港中文大学)
Rebecca Dent(シンガポール国立がんセンター)
■来場者数
1000人(予定)
※ASCO Breakthrough 2023 公式サイトはこちら
【関連情報】
ASCO Breakthrough 2023開催概要とインセンティブの支給について(日本臨床腫瘍学会)
ASCO Breakthrough 2023開催概要とインセンティブの支給について(日本癌治療学会)