高齢化の進展に伴い、在宅医療のニーズは高まっている。在宅患者訪問診療料の算定回数は増加する一方、訪問診療を行う施設数は横ばいまたは微減傾向にあり、1施設当たりの負担が大きくなっている。連載第42回は、医師目線のニーズをもとに開発された在宅医療向け電子カルテを活用し効率性を向上させ、24時間365日体制で毎月約150人に訪問診療を行っているクリニックの事例を紹介する。
東京都新宿区にある「フジモト新宿クリニック」は、慈恵医大を卒業した後、消化器外科医としてキャリアを積んできた藤本進院長が、「『自宅で最期を迎えたい』という願いを叶える」をコンセプトに掲げ、2000年に開業した在宅医療をメインとするクリニック。現在は約150人の患者に対し、24時間体制で訪問診療を提供。高齢化が著しい地域のため、近年は認知症や難治性の神経疾患の診療にも力を入れ、ある程度回復して通院可能になった患者が継続して受診できるよう外来も開設している。
「開業する前、友人のクリニックで訪問診療に携わったとき、入院している患者さんよりも自宅で療養している患者さんのほうが、同じ病状でも生き生きとした毎日を過ごしていることを知りました。症状が悪化した場合は病院に入院する必要はありますが、希望する方には、最終的に自宅で亡くなる“自然な看取り”をできるだけ増やしたいという思いで開業しました。連携型の機能強化型在宅療養支援診療所として地域の病院やクリニックと連携しながら、24時間365日体制で訪問診療を行っています」(藤本さん)
訪問診療は移動に時間がかかり、スケジュール管理を含め生産性を高めることが非常に重要になる。同院は、外来では電子カルテを活用していたが、その電子カルテが訪問診療には使い勝手が悪く、カスタマイズも難しかったため、やむなく紙カルテを使用していた。藤本さんは患者と向き合う時間を確保するために、カルテ入力に割く時間を最小限に抑える手段として、クリニックの引越しを機に在宅医療向けの電子カルテを導入、外来でも活用している。
同院の電子カルテシステムは、メディカルインフォマティクス株式会社の「homis」。同社は、首都圏最大級の在宅医療に特化したクリニックグループである「医療法人社団悠翔会」を母体とする。homisは悠翔会の医師チームとともに開発、診療現場における課題や気づきを“医師目線”でシステムにフィードバックすることで、在宅医が使いやすいクラウド型電子カルテに最適化した。藤本さんはhomis導入の決め手になったポイントについてこう語る。
「複数の電子カルテを検討しましたが、訪問看護中心の設計だったり、訪問診療向きではなかったりと満足できるものがない中、homisは在宅を理解している人が作っていることがよく分かる使い勝手と機能を備えていました。導入に当たっては、悠翔会が開発に関わっているという安心感も大きかったですね。セキュリティ対策がしっかりしているクラウド型のためどこでも安心してカルテにアクセスでき、念願だった訪問先での入力ができることも魅力でした」
homisの機能の主な特徴は①カルテ入力作業を最小化、②複数のカルテを同時編集可能、③カルテ内容から文書作成の必要情報を自動引用─の3点。
カルテ入力作業を最小化する機能では、カルテを事前準備することにより定期処方や次回の検査内容を備忘録として確認でき、当日の診療をスムーズに開始することが可能になる。カルテ画面(図)は在宅医の目線で開発されたシンプルな構成になっており、視認性が高くタブレットなどでも操作が簡単。過去のカルテや処方内容も引用して作成することが可能で、カルテの入力作業負担を軽減し、医師は患者との対話や診療に集中することができるようになる。
複数カルテの同時編集は、施設の訪問診療で効果を実感できる機能。施設の集団診療では診療以外にも施設看護師への申し送りなど、異なるタイミングで同一患者のカルテを編集する必要が生じる。homisでは複数患者のカルテを同時に開いての編集が可能なため、患者のカルテ画面を開閉することなく入力作業を続けることができる。
電子カルテ情報の自動引用機能は、診療情報提供書、居宅療養管理指導書、訪看指示書などの書類作成を省力化。手入力に比べ、書類内容が充実し、文書作成時間の大幅な削減につながる。
このほかhomisは、地域医療連携を円滑に進めるための情報共有や請求などバックオフィス業務を支援する機能も充実。複数のクリニックで連携するための情報共有に加え、さまざまな書類の作成、訪問スケジュールの管理など、在宅医療に必要な業務支援機能を盛り込んでいる。当直を含め、24時間対応のシームレスな在宅医療を高い質を保ちながら負担なく提供することができる。
日本における在宅医療のニーズはますます高まっていく。在宅医療は慢性疾患の患者が多く、継続性が重要になる。藤本さんは今後、若い世代の在宅医の育成に取り組んでいきたいという。
「homisは自宅にいてもスマホやタブレットからでもカルテチェックなどの操作ができるので、例えば若い先生に訪問診療に行ってもらい、遠隔でカルテを共有しながらノウハウを伝えていくということも可能になると思います。場所を選ばず、効率的な指導が可能になります。当院では私が引退するまでhomisを変えるつもりはありません。homisの機能は、日々の訪問診療の質や生産性を高めるだけでなく在宅医療の裾野を広げていく取り組みにも有用だと思います」