1 小児とは異なる症状を生じる成人のウイルス発疹症
ウイルス発疹症は小児に多いが,家庭内や小児施設での蔓延に伴い,成人でも発症する。その中で手足口病とヒトパルボウイルスB19(以下,B19)感染症では小児と成人での臨床像が異なることから注意が必要である。
2 手足口病の小児と成人の症状の違い
手足口病はコクサッキーウイルスA16(CA16),CA6,あるいはエンテロウイルス71(EV71)による感染症で,原因ウイルスにより症状が異なる。5歳以下の小児に多いが,成人の報告も散見される。
手掌,足底,足背と口腔粘膜の小水疱を特徴とする。成人では小児よりも口腔粘膜疹の頻度が少なく,皮膚症状が多彩である。口腔粘膜疹や手足の皮疹のほかに,全身に多発する紅斑,丘疹,小びらん,痂皮,紫紅色斑あるいはStevens-Johnson症候群様皮疹などを生じることもある。成人では高熱を伴うこともある。
症状消退後も便中や唾液からウイルスが検出され感染源になる可能性があるため,正しい診断と予防策により蔓延を防止することが大切である。
3 B19感染症の小児と成人の症状の違い
B19感染症は飛沫感染により起こり,症状は軽度の発熱を伴って両頬の平手打ち様紅斑(slapped cheek),四肢の網状紅斑を特徴とする。8歳以下に多いが,成人例も多く報告されている。
成人では両頬の平手打ち様紅斑は少なく,発熱,倦怠感,リンパ節腫脹,手足の腫脹,関節の腫脹,多関節痛などの皮膚以外の症状を伴うことが多い。皮疹は多彩で,体幹,四肢では網状紅斑のほかに滲出性紅斑,丘疹,紫斑,点状出血が多発することが多く,手指から前腕,下腿から足背の腫脹が著明である。
成人のB19感染で注意を要するのは,全身症状/合併症の頻度が高く,症状も強い点である。関節症状,心疾患(心筋炎,心膜炎など),神経症状,肝疾患,腎疾患,甲状腺機能亢進症,血管炎/血管障害,および感染後慢性疲労症候群が挙げられる。
さらに,もともと合併症のある人や妊婦のB19感染は特に注意を要する。加えて注意すべきは妊婦感染での胎児水腫,溶血性貧血患者でのtransient aplastic crisis,免疫不全患者での遷延性感染,持続性貧血である。
したがって,流行期には成人のB19感染を常に念頭に置き疑って診療する必要があり,合併症のある人の感染では診断後に適切な対応を要する。
伝えたいこと…
最近3年間ほとんど流行のなかった,手足口病とB19感染症の周期的流行が,2023年には起こる可能性が指摘されている。小児での典型的臨床像は確立しているが,成人ではいずれも全身症状が強く,皮疹が多彩で非典型的である点から診断が難しい場合がある。手足口病では症状消退後のウイルス排泄に注意が必要であり,特に成人のB19感染症では種々の合併症(特に致死的な合併症)のリスクもある。
そこで,成人においても感染症の流行状況を常に把握し,流行時期にはこれらのウイルス発疹症を鑑別のひとつとして念頭に置き診断にあたるべきである。