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【識者の眼】「非感染性・慢性疾患の疫学者が語る『超過死亡とワクチンの関連』のみかた」鈴木貞夫

No.5178 (2023年07月22日発行) P.61

鈴木貞夫 (名古屋市立大学大学院医学研究科公衆衛生学分野教授)

登録日: 2023-07-11

最終更新日: 2023-07-11

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新型コロナが5類へ移行した後も、新規感染者数は定点観測やモデルナ社のサイト1)からある程度の確認ができるが、死亡者は、国立感染症研究所が示す「超過死亡」が見られる場合に新型コロナ流行の可能性を類推するという間接的な指標2)を用いるしかない状況にある。超過死亡とコロナ死亡は本質的に別物だ。コロナ流行期には、「超過死亡=コロナ死亡」の近似にコンセンサスがあったが、とうにそんな近似は意味をなさなくなっている。

6月9日に、全国17の市や区から3月20日〜5月14日までに報告された死者数には超過死亡は見られなかったという報道3)がなされた。発表は「超過死亡なし」だったが、実際は過小死亡が観察されるほど死亡は減少した。この報道を受けて、SNSでは「異様な超過死亡があったときには騒がず、なかったときだけしっかり報道するのか」という論調が見られた。しかし、今回超過死亡を発表したのは、5類移行に伴い、コロナ死亡が計上されなくなったからで、これをもって従来の死亡の代替とするということは、改正前から決まっていたことである。「結果を見て」の発表ではなく、高くても発表したということで、批判は当たらない。

超過死亡とワクチン接種数との相関が高いことを理由に、両者の因果関係を疑う言説が出続けているが、6回目接種の影響が反映されてしかるべき5月28日までの週でも、全地区で超過死亡は認められていない。因果関係を超過死亡で判断するのは方法論的に無理があろう。

小島勢二名古屋大学名誉教授が、2020〜22年の年齢別に見た超過死亡の発生について、16〜19年の年間死亡数の平均値との差を計算し、平均値に対する割合で示している。70歳代以上の高齢者で、20〜22年に一貫した割合の上昇を示し、「21年以降に見られた死亡率の激増を考慮すれば、21年から開始されたワクチン接種が引き金となった可能性は否定できない」と結論付けている4)

しかし、この計算法で同時期の年齢別「人口」割合の推移を見ても、ほぼ同じ形のグラフが描ける(死亡の生じる高齢者人口も同じように増えている)。20、21年の簡易生命表 5)の1歳刻みの高齢者死亡率の推移を見ても、16〜19年の平均値より高いという傾向はまったく見られず、これは超過死亡ではなく人口の高齢化を示すものだ。22年については生命表を待つ必要がある。非専門家による情報発信は監修が必要である。

【文献】

1)モデルナ社公式サイト:新型コロナ・季節性インフルエンザ リアルタイム流行・疫学情報.
https://moderna-epi-report.jp/?fbclid=IwAR1gTok1DOqukcn8a9vSD5efXKvl3uQ3kwJsooWBpm-JbD7vT5flIk6dSEM

2)国立感染症研究所:超過死亡の迅速把握 2023年5月28日までの報告(2023年6月23日).
https://www.niid.go.jp/niid/ja/idsc/493-guidelines.html

3)ytv news:コロナ5類移行後「見えない流行や死亡者増加ない」国立感染症研究所が見方示す(2023年6月9日). 

4)小島勢二:アゴラ言論プラットフォーム. 年齢別に見た超過死亡の発生について(2023年6月15日).
https://agora-web.jp/archives/230614024533.html

5)厚生労働省:統計情報・白書 簡易生命表(基幹統計)(1996〜2021年).
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/seimei/list54-57-02.html

鈴木貞夫(名古屋市立大学大学院医学研究科公衆衛生学分野教授)[新型コロナウイルス感染症][簡易生命表]

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