こども家庭庁が2023年4月に「こどもまんなか」を掲げ、縦割りの行政システムに「こども」をキーワードとして横串を刺す形で設置された。その理念は、「こども家庭庁は、こどもがまんなかの社会を実現するためにこどもの視点に立って意見を聴き、こどもにとっていちばんの利益を考え、こどもと家庭の、福祉や健康の向上を支援し、こどもの権利を守るためのこども政策に強力なリーダーシップをもって取り組みます」とされている。
1人の権利の主体として、子どもたちが持つ権利を定めた条約である「子どもの権利条約」にわが国が批准したのは1994年である。しかしながら、子どもの権利についてどれだけの日本人が意識しているのだろうか。条約批准25周年の19年にセーブ・ザ・チルドレン・ジャパンが3万人を対象にアンケート調査を行った。その結果、「聞いたことがない」「名前だけ聞いたことがある」という大人は83.6%、子どもは67.0%とほとんどの国民は子どもの権利条約の内容を知らなかった1)。日本の子どもたちの現状は、学校も含めたすべての場面において、必ずしも「こどもまんなか」で子どもの権利を意識した環境が整っているとは言いがたい。
1例として、子ども虐待の定義の問題について考える。日本では子ども虐待を「保護者がその監護する児童について行う」行為として定義している。主語は子どもではなく、保護者であり、「こどもまんなか」ではない定義となっている。たとえば、きょうだい間の性被害は、保護者による「ネグレクト」と分類されるのである。一方、世界保健機関(WHO)は子ども虐待を「18歳未満の子どもに対して行われる、生存、発達、尊厳を脅かす行為」として定義しており2)、米国疾病予防管理センター(CDC)では「子どもが危害を加えられたり、危険や脅威にさらされたりすること」と定義している3)。子どもが主語となっており、まさに「こどもまんなか」、子どもの権利を守るための定義となっている。
子どもの権利は大きく4つにわけられる。住む場所や食べ物があり、医療を受けられるなど命が守られる「生きる権利」。勉強したり遊んだり、持って生まれた能力を十分に伸ばしながら成長できる「育つ権利」。暴力や搾取、有害な労働から守られる「守られる権利」。自由に意見を表明し、その意見や考えが尊重される「参加する権利」である。
こども家庭庁の設置により、様々な施策が「こどもまんなか」に進んでいくことを期待しながら、社会全体で子どもの権利が守られる環境をつくっていくためには、私たちひとりひとりも子どもが権利の主体であることを意識し行動することが求められる。
【文献】
1)セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン:3万人アンケートから見る子どもの権利に関する意識. 2019.
https://www.savechildren.or.jp/news/publications/download/kodomonokenri_sassi.pdf
2)World Health Organization:Child Maltreatment. 2022.
https://www.who.int/en/news-room/fact-sheets/detail/child-maltreatment
3)National Center for Injury Prevention and Control:Child Maltreatment Surveillance, Uniform Definitions for Public Health and Recommended Data Elements. 2008.
https://www.cdc.gov/violenceprevention/pdf/CM_Surveillance-a.pdf
小橋孝介(鴨川市立国保病院病院長)[子ども虐待][子ども家庭福祉][こども家庭庁][子どもの権利]