<前回まではこちら>
▶新型コロナとの闘い①─学長としての最初の仕事はコロナと確信
▶新型コロナとの闘い②─闘いが始まる(2020年4月)
▶新型コロナとの闘い③─大学の方向を示す(2020年4月)
コロナと闘うために大学をひとつにまとめる必要性を感じ、そのために何をすべきか? と思索するうちに、「力を合わせて患者と仲間たちをコロナウイルスから守る」という一文が頭に浮かび、これを合言葉として全職員にメールで呼びかけ始めた。月〜金は毎日メールマガジン「コロナ対策通信」を発行し、さらに病院で始めた朝のZoomカンファレンスに参加し、「試行錯誤を大切にしよう」「責めるより応援しよう」と繰り返し、繰り返し、呼びかけた。
実は本学は、2015年7月に結核病床を稼働率が低いため返還し、感染症指定医療機関ではなくなっていた。経営上の判断だったが、その結果、当院の清掃業者にとって感染病棟の清掃は(感染病棟がなくなったので)「契約外」だった。そこでコロナ病棟を清掃してくれる業者を探したが、感染死亡率1%と言われていた当時の状況では見つかるはずもなかった。では誰がコロナ病棟を清掃するか? コロナ対応の医師、看護師、病院スタッフは手一杯で無理……。途方に暮れていたときに、医療担当理事でコロナ対応の陣頭指揮に当たっていた大川淳整形外科教授が、予定の手術が次々延期になり、腕を撫していた整形外科医たちに対して、コロナ病棟の清掃をするように声をかけ、外科医たちが清掃用具を持ってコロナ病棟を清掃してくれた。「外科医が掃除まで!」ということで随分と雰囲気が変わり、多くの医師が「自分もコロナ対応の応援に!」と、清掃以外にも陽性患者の入退院補助や電話対応をしてくれた。さらに体外循環に熟達している心臓外科医がECMOを動かし、精神科医が職員のメンタルヘルスに立ち上がってくれた。そうこうするうちに、今度は診療科を越えて動く若手が現れ始めた。コロナのPCR検査である。
当時は、保健所や衛生研究所とは検体搬送の制限があり、一部の外注検査所しかコロナPCR検査ができなかった。入院前コロナPCRスクリーニング検査や職員対象コロナPCR検査が実現できたのは、若手が自主的に診療科の垣根を越えて動いてくれたからだと今でも感謝している。
しかし、一体感が生まれてきたとはいえ、喜んでいるゆとりはなかった。20年5月に入り、4月の病院の稼働減による影響額が10億円以上という速報が入ってきたからである。753床のうちコロナ用病床は90床(重症22床、中等症43床、疑い25床)での運用だったが、コロナ用病床の運用に通常の2倍の看護師を要するため、コロナ用病床以外の休床が129床もあった。さらに、ERが一般救急の受け入れを中止したこと、歯学部附属病院(当時)は診療を休止し、稼働がほぼゼロだったことも堪えた。その後、職員対象コロナPCR検査の費用を合計すると、たった1カ月で12億円の赤字となることがわかった。しかも、欧米でのコロナ感染は一向に沈静化の兆しさえない……。この調子でパンデミックが長引くと国立大学法人といえども、資金がショートする可能性が出てきた。コロナ対応に命がけで頑張る仲間を、病院を、大学を守り、社会に貢献するため、「今こそ動かなければならない」と私は思った。
田中雄二郎(東京医科歯科大学学長)[新型コロナウイルス感染症]