「がん患者の治療抵抗性の苦痛と鎮静に関する基本的な考え方の手引き2018年版」では,鎮静に対する考え方が大きく変わったことが読み取れる。終末期がん患者に対する苦痛緩和の鎮静は,安楽死との区別に混乱がみられ,「持続的深い鎮静」と「安楽死」との違いに議論が多くあった。在宅での持続的深い鎮静の場面は,病院に比べ少ないという在宅医の意見も多い。病院は非日常の場,ストレスの多い空間であるが,在宅は日常の場,ストレスの少ない空間である。この差が,治療抵抗性の苦痛を生む要因だと考える在宅医も多い。しかし,遭遇することは少ないものの,持続的深い鎮静の知識は重要である。
遭遇した場合には,以下の①~⑤のポイントが大事になる。①治療抵抗性の耐えがたい苦痛があること,②患者の同意(希望)があること,③可能であれば家族の合意があること,④医療チームの合意があること,⑤適切な薬剤を適切な方法を用いて行うこと,である。
鎮静とは,「治療抵抗性の苦痛を緩和することを目的として,鎮静薬を投与すること」と定義された。治療抵抗性の苦痛とは,「患者が利用できる緩和ケアを十分に行っても患者の満足する程度に緩和することができないと考えられる苦痛」と定義された。耐えがたい苦痛とは,「患者が耐えられないと明確に表現する,または,患者が苦痛を適切に表現できない場合には患者の価値観や考えをふまえて耐えられないと想定される苦痛」と定義された。
鎮静薬とは,「一般的には,中枢神経系に作用し興奮を鎮静する薬物」と定義され,「日本の実臨床で使用されている頻度の高い薬剤」と定義された。具体的にはベンゾジアゼピン系麻酔導入薬ドルミカムⓇ(ミダゾラム),ベンゾジアゼピン系睡眠薬サイレースⓇ(フルニトラゼパム),ダイアップⓇ(ジアゼパム),ブロマゼパム,バルビツール系睡眠薬フェノバール,ワコビタールⓇ(フェノバルビタールナトリウム)である。なお,オピオイドと抗精神病薬(ハロペリドール,クロルプロマジン,レボメプロマジン)は鎮静薬には含めない。
鎮静薬の投与方法により「間欠的鎮静」と「持続的鎮静」に大きくわけられ,持続的鎮静はさらに「調節型鎮静」と「持続的深い鎮静」に区別された。原則的には調節型鎮静を優先して考慮し,持続的深い鎮静の使用は限定的となる。鎮静の主な対象とは,「せん妄」と「呼吸困難」である。
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